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消えた乗客の正体

やがて松葉杖をついた、きりっと引き締まった顔の男が姿を現した。年は四十歳過ぎ。髪を撫でつけ、切れ長の鋭い眼差しで宇賀神さんの隣に腰を下ろす渋川さんをじろりと睨み付けた。 「おぃ、渋川!若頭補佐の分際で、てめえーがなんでそこに座ってんだ!」 怒鳴り声をあげた。 「槇島、落ち着け。とりあえずそこに座れや」 宇賀神さんが静かに口を開いた。 「槇島にあれを渡せ」 末席に控えていた金髪の若者に命じると、槇島さんに白い紙を渡した。 「あれは絶縁状だ。あとでヤス兄ちゃんに詳しく教えてもらえ」 卯月さんがにこりと笑んだ。 「承服出来ない。俺が何をした?」 「自分の胸に手を当ててよく考えろ」 「さぁ~~な。これっぽっちも心当りがないな」 槇島さんが不敵な笑みを浮かべた。怖いくらいに落ち着いていて、逆にそれが恐ろしかった。

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