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決別
「子どもがいるのに危ないな」
ヤスさんは相手にしなかった。
「お前が四季か?会いたかったよ。お前は父さんを見捨てないよな?」
媚びるような猫なで声を出した。
「は?そんな台詞がよく言えたものだな。海堂」
蜂谷さんが目をつり上げた。
「ハチ、相手にするな」
ヤスお兄ちゃんは怖いくらい落ち着いていた。だからかな。取り乱すことなく不思議と冷静でいられたのは。
「僕の父は長澤《ながさわ》剛《ごう》。母は杏菜《あんな》です。海堂さん、僕はあなたの息子ではありません。失礼します」
軽く頭を下げてハンドリムに手を置いた。
「あなたの息子ではありませんか。母親そっくりだな。顔も口の聞き方も。全部。虫酸が走る。お前まで父親を馬鹿にするとはな。ろくでなしの子どもはろくでなしだな。年老いた父親を見捨てて、自分だけ幸せになるのか!」
海堂さんが爆発したように怒鳴りはじめた。店員や買い物客の冷ややかな視線が一斉に僕たちに向けられた。
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