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二ヶ月後
「四季さん具合はなじょった?」
コンコンと遠慮がちにノックの音が聞こえてきて。斉木先生が顔を出した。
「ながはらレディースクリニックで事件が起きたと聞いて、そうだ。今日は四季さんの妊婦健診の日だべした。心配していたんだ。良かった無事で」
「斉木先生ご心配をおかけしてすみませんでした」
「四季のあんにゃ夫婦と、蜂谷さんたちが四季さんには付いているから別に心配はしていなかったぞ。胎児も順調で何よりだ」
斉木先生が記録紙に出力された心拍波形のグラフを眺めた。
「四季さんや、このまま入院してややこ産むか」
「え?」
「永原先生に聞いたらいつ産まれてもおかしくないんだと。それこそ今晩産まれるかも知れない。このまま入院すっか?」
彼を見上げると手をぎゅっと握り締めてくれた。
「もし陣痛が来なかったら明日の朝帰ればいい」
「斉木先生、心春と円花が待っているので家に帰りますでは駄目ですか?」
「心配しなくても卯月さんと未知さんと橘がいるから大丈夫だ」
ちょうどそのとき彼のスマホの着信音が鳴った。
「ほら噂をすればなんとやらだべ」
斉木先生の言う通り電話を掛けてきてくれたのは未知さんだった。
ー心春ちゃんと円花ちゃんのことは心配しなくていいから、元気な赤ちゃんを産んでね。一太を産んだときは陣痛が来てもなかなか産まれてなくね。丸一日かかって本当に大変だったんだー
「ありがとう未知さん」
ーお互い様だから気にしないでー
未知さんの何気ない優しさと気遣いが嬉しくて。目頭が熱くなった。
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