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秦誉という男

「くそ」男性が悔しさに顔を歪めながら吐き捨てた。警察よりも先に菱沼組の構成員が駆け付けたからだ。 「は?聞いてない」 しかめ面をし愚痴を漏らした。 「多勢に無勢だ。諦めろ」 弓削さんが男性を諭すように声を掛けた。 「それと命を粗末にするな。先々代と朔久のところに行くならまずは罪を償ってからにしろ」 「やかましい!」 さっきまで余裕綽々でいた男性があきらかに動揺していた。 「奥歯に自決するための青酸カリが仕込まれているんだろ?」 「オッサンは黙れ」 男性の苛立ちは極限に達していた。 「誉、今ならまだ間に合う。自首しろ」 弓削さんは落ち着いた口調で話し掛け続けた。 「誉は次期跡目として先々代に甘やかされて育てられたからな。プライドがやたらと高いんだ。だから自分が座るはずだった組長の椅子に千里が座っていることがどうしても許せないんだ。誉は千里を殺したいくらい憎んでいる」 弓削さんは怒り狂う気持ちをぐっと堪え、男性に敬意を示し、プライドを傷付けないようにしているとヤスお兄ちゃんが教えてくれた。

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