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10年……だよ
「何を遠慮しているんだ。中に入ったらどうだ?」
蜂谷さんの声が聞こえてきて、紬ちゃんをおんぶ紐で前で抱っこした結お姉ちゃんが入ってきた。
「ごめんね遅くなって。昨日紬が熱を出しちゃってね、来たくても来れなかったの」
「ううん、大丈夫です。結お姉ちゃんこそ顔色が優れないけど大丈夫ですか?」
「あ、う、うん」
妙に歯切れが悪かった。なにか言いたそうだった。すると見るに見かねたヤスお兄ちゃんが助け舟を出した。
「年末年始紬を連れて上京して四日旦那とともに過ごし、帰るときになりもっと一緒にいたいと二日延長した。離れていても夫婦だからな」
鈍感な僕でもぴんと来た。
「もしかして……」
「まだ分かんないよ」
「分からなくないんだろう。じゃあ聞くが、まる二日間宿泊していたホテルの部屋から一歩も出ず、紬を光希たちに預けて十矢と朝から晩まで何をしていたんだ?」
「だからそれはその……」
結お姉ちゃんの顔が真っ赤になった。
「紬に弟か妹が出来る。これほど嬉しいことはないだろ?十矢だって今度はおろせとは言わないはずだ」
結お姉ちゃんが下を向き黙り込んでしまった。
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