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四季の手はあたたかいね
「十矢はね地獄を何度も見てきた。それこそ大人の狡さや人間の醜い部分をつぶさに見てきたと思うの。実の妹だと知っていながら結と結婚したのは母を見殺しにして一切助けてくれなかった父親の和彦に復讐するため。十矢は紬を抱っこしたとき、良心の呵責に苦しんだはずよ。本当にこのままでいいのかって。みんな強い人間ばかりじゃないわ。弱い人間だっているもの。結、泣きたいときは我慢しなくてもいいのよ。アタシで良ければ愚痴なんでも何でも付き合うわよ。終電まで時間があるから女子会でもしようか?紬ちゃんはヤスとハチがみててくれるって」
「チカちゃん……私ね……」
結お姉ちゃんがわぁーと声を出して泣き出した。
「よく我慢してきたわ。偉いわよ。四季はご飯をちゃんと食べるのよ」
チカちゃんが結お姉ちゃんの肩をそっと抱き寄せた。
気が付いたら病室はシーンとして、ひとりも人がいなかった。面会時間が終わるまであと十分あまり。ようやく寝てくれた凛のあどけない寝顔に安堵のため息をついていたら、
「良かった。間に合った」
彼が息を切らして駆け込んできた。
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