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十矢さんの帰宅
「気安く呼び捨てにしないでいただけますか?」
橘さんが目をつり上げて部屋に入って来た。
「誘拐され酷い目にあい疑心暗鬼になり誰も信じたくないのは分かります。分かりますがあなたがしていることは結さんをますます傷付けることになります。自分がやられて嫌なことをなぜ結さんにしたんですか?復讐したいなら結さんではなく和彦さんに直接してください。一定期間距離をとり、精神的に落ち着いたころを見て話し合うと千里が言ってませんですか?」
「橘……じゃない。橘さん、結はどこの病院にいるんですか?」
「絶対安静で面会謝絶です。主治医の伊藤先生の話しでは体調が落ち着くまではしばらく無理です」
「そういえば紬のときもつわりが酷かった。すっかり忘れていた。あっ………」
十矢さんが何かに気付き慌てて駆け出した。でも、縁側から下りずにじっと前を見つめた。
紬ちゃんはおんぶ紐で弓削さんにおんぶしてもらい、ぱたぱたと元気に手足をバタつかせていた。
弓削さんとヤスお兄ちゃんが紬ちゃんに笑顔で話し掛けながら、仲良く洗濯物を干していた。
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