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第4話

ふと声を掛けられ、声の主の方へ振り向いた。 「え…」 声の主は、少し茶髪な髪色に、優しそうな瞳をした同年代程の男だった。 この学院と思われる場所に連れてこられてからかれこれ数十分経っていたが、初めて出会えた人だった。 恵は直ぐ様事情を話した。 「転入生?」 茶髪の男は、…うん?と考えるような仕草をすると、暫くしてああ、と頷いた。 「もしかして君、畑瀬恵くん?」 突然名前を言い当てられ、恵は驚きながらも頷いた。 「はい……あの、何で…」 すると、茶髪の男は恵の疑問に気付いたのか、それはね、と理由を話した。 「以前から転入生が入るっていうのは聞いてたし、名前の方も念の為と思って、記憶してたんだよ、俺記憶力は良い方だからね」 「はぁ…」 恵はスラスラと話す目の前の茶髪の男に、そうやって返事を返すしかなかった。 茶髪の男は優しそうに笑って、ああ、ごめんね、と言いながら自己紹介を始めた。 「俺は岳端蛍、この学院の2年生だから…恵君の先輩になるかな。これから宜しくね。」 そう言って手を差し伸べてきた茶髪の男___蛍に、恵はぎこちなく手を差し伸べ、握手をした。 恵は密かに感じる違和感に胸を打たれながらも、顔をあげ蛍を改めてまじまじと見た。 一見、優しそうに見えるけど何か……気のせい、かな。 「ところで____恵君はここで何してるの?今日から転入って事は午後から授業入るんだよね?今は昼の時間だから、正門前に来る人も居ないし……」 ふと恵は思った。 「…え、正門?」 「…うん?」 え、何処に正門が…?先程から、学院と思われる豪邸のような屋敷のような建物はチラチラと見えていたが、正門なんて何処にも無かったような……。 「ほら…丁度ここから20m位歩いた先に、柱が見えるでしょ?」 「は、はい」 けど彼処はさっき見たけど只の柱と柱が建ってるだけじゃ…、え、まさか… 「あ、あの…あの柱の所が正門なんですか?」 茶髪の男は一瞬キョトンとした顔を見せ、ぷっと吹き出した。 「ぷっ…ふふっあははははっ…め、恵君…も、もしかして迎えの者に聞いてなかったのっ?」 突如笑いだした蛍に、恵は戸惑いを隠せない。 「ふ、ふふっ…あのね、あの柱の丁度中央にカードキーを差し込む認証装置があるんだけどそこに自分の学生証を差し込むと柱の奥の扉が開いて中に入れるようになってるんだよっ…」 蛍はまだ笑いが収まらないのか、丁寧な説明ながらもふふふ、と笑ったままだった。 そんなに面白いことだっただろうか…。恵は訝しげに眉を寄せた。 そんな様子に気付いた様に蛍は笑うことを辞め、ごめんね、と謝ってきた。 「…いえ。取り敢えずあそこが正門なんですね。…教えていただきありがとうございます。蛍先輩」 そう言って日々あまり笑い慣れていない顔を無理矢理動かすように、ぎこちなくながらも蛍に向かって微笑んだ。 「……っ……」 「…?どうかしましたか?」 突如固まってしまったかのように動かなくなった蛍に恵は覗くように聞いた。 「…あ、ああ。何でもないよ。……じゃあ、俺は少しやることがあるからここまで説明しといて悪いけど学園内には恵君だけで行ってもらえるかな?中に入れば、他の生徒も、教師もいると思うから、迷うことはないと思うよ」 蛍は一瞬焦ったように固まった顔を動かし、直ぐ様先程のような優しそうな笑顔に戻った。 「はい。ありがとうございました、蛍先輩」 「…じゃ、じゃあまた学園でね」 そう言って蛍はすたこらと早足で何処かに向かっていった。 時間を取らせちゃったかな、と恵は少し申し訳なさを覚えたがこの際仕方ない。 途中から様子がおかしかったが何か気になったことでもあったのだろうか? 恵は少なからず自分に関わりがあると、不安を覚えながらも正門に向かって歩いていった。 恵の後ろ姿を見守るようにして、学院に入るまでを見届た蛍は、すっと電話を取り出した。 『……俺だ。実は今からやって欲しいことがあるんだけど……』 蛍はそう言うとすらすらと用件を言った。 『……じゃ、頼むね』 そう言って話終えた蛍は電話の電源を切ると目的地に向かって歩き出す。 そして静かに誰にも聞こえないような声でこう呟いた。 「……可愛い玩具を見つけたよ、孝」 蛍はクスリ、と笑い、空を見上げた。

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