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第10話
恵は隣で歩く人物、比々野を見上げるような形で言葉を口にする。
「あの、…さっきはありがとう。助かった」
久し振りに助けられた事への感謝の言葉を口にした恵はその新鮮さに何故か懐かしさを覚えてしまう。
すると、隣で歩く比々野はそうか、といった顔で告げた。
「それにしては助けられた事に関してあんまり嬉しそうじゃないよな」
告げられた言葉に恵ははっと気付いた。
いつのまにかこんな初対面同様の相手に悟られるほど顔に出してしまっていたのか、と恵はあからさまに嫌そうな顔をした。
「ぷっ…そんな嫌そうな顔すんなよ。俺はただ単に相手の表情とか感情の動きに敏感なだけだから分かるんだよ」
特に感情を圧し殺してる奴とかのな、と密かに笑いながらそう付け足した比々野の言葉に、恵は動揺する。
「そういや、お前の名前何?」
「…………転入してきてから五日は経ってる筈なんだけど」
恵は皮肉げに、そして笑われたことに関して仕返しをするように口にした。
「ふーん………で?名前は?」
そんな恵の言葉を完璧に無視する過程で、比々野は尚も名前を聞いてくる。
恵ははぁ、と小さく溜め息をつくと比々野を見上げた。
「畑瀬、恵」
「めぐみ、ね。俺は___」
自分の名前を言おうと口を開いた比々野の言葉を塞ぐように、すかさず答えた。
「知ってる、比々野龍」
「もしかして降矢に聞いた?」
「そうだけど…」
ふーん、と何か考えるような仕草をする比々野に恵は訝しげに見た。
「いや、俺毎日寝てばっかだからろくに他人とも関わらんし、クラスメイトの半分も名前分からんから転入生のお前に名前覚えられてるって思うとな、変な感じがするんだよ」
恵はそういうものなのかと、思うと話を続ける。
「所でずっと気になってたんだけど」
「…何?」
「恵って、兄妹とかいる?」
ドクン、と久し振りに自分の心臓が甦るような感覚を感じた。
何で今、そんなことを…。
「…一人っ子だけど…何で…?」
「いや、何かさ俺と同類みたいな……そんな感じがしたんだけど」
すると比々野ははぁ、と深呼吸をすると恵を手招きする。
「何…?」
恵はそろそろと近寄る。
するといきなり比々野は恵を抱き締めるように引き寄せ、恵のお世辞でも大きいとは言えない手を自分の心臓がある辺りの胸に置かせた。
「………………え?」
恵の動揺とも言える微かな声を聞いた比々野は、やっぱりかと顔をはころばせる。
「な、んで……」
「お前は俺と同じ感じがするんだよ…」
比々野はそう言い笑って次の言葉を口から放った。
「俺には心臓がないんだ」
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