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二時間目
授業終了の鐘が鳴ったのを聞き終えると同時に
教室に入って机に返事を書き始めた。
『本当は嬉しいくせに!なあなあ、何組の人?』
わざと茶化すような言葉を選んで冗談めかしく綴る。
「これでおっけー」
「なにが?」
「うわ!なんだよ見間かよ」
咄嗟に机の上をノートで隠した。
「なんだとはなんだよ、せっかくノート貸してやろうと思ったのに」
「すみませんでした。俺にノートを恵んでください」
「わかればよろしい。ほらよ。」
「あざーす!!」
パラッと今日書いたであろうノートのページを捲る。
なるほどなるほど複素数と方程式…
ってなんだそりゃ
習字を習っていたであろうきれいな文字が書かれたノートはすぐに閉じた。
呑気に確認してる場合じゃない。
火曜の数学の次は体育だ!
さっさと戻んなくちゃいけない
「さんきゅー、後で返す!戻ろーぜ」
「ん」
教卓の方から先生が俺を呼ぶ声がするけど無視だ無視
俺には体育に出なきゃ行けないという重大な任務があるからさ
次の数学は木曜日だ。
大好きな体育の授業よりも
いまから明後日のこの時間が楽しみで仕方なかった。
、
待ちに待った木曜日
早速、席に着くなり机の上を確認する。
『秘密。お前は何組なの』
ひみつ、だ〜?何みすてりあすぶってんだか
そっちがその気なら俺だって対抗してやるからな!
『じゃあ俺も秘密!名前は?誕生日は?身長は?体重は?好きな色は?あとはー、なんの音楽が好き?次、俺が見るまでの宿題ですよ!』
我ながらうざいな、と思った。
だがしかし、それが俺なのでもうこの際開き直ってしまおう。
返事が来なかったら来なかったで仕方がない。
そっと消してしまえばいい
そういう後腐れないのがきっとこの机文通のいい所だ。
それから、すぐに終わるだろうと思っていた机文通は意外と長く続いていた。
『質問攻めかよw名前は秘密、誕生日は11月生まれとだけ。身長は小さくはない、体重は覚えてない、好きな色は黒、音楽はインディーズバンドだったらよく聞く。お前は?』
『思ったより律儀に答えてて笑ったww俺も名前は秘密だね!身長は俺も小さくないし!体重何キロだっけ?俺は青が好き!空の青な!お?バンド好きなの!?じゃあ、じゃあ、神サイとかカフカって知ってる??俺、めっちゃ好きなんだ!』
素っ気ない言葉とは反対に律義に質問に答えてくれるところとか
『勧められたやつ聞いた。1個目はすげーいい。2個目はそーでもない』
『アレいいよな!あー、ラップはそんなに好まなかったかあ。じゃあ次は……』
好き嫌いがハッキリしてて、意外と趣味が似てる。
話が弾むところとか
『教頭のカツラが今日はズレてた』
『そんなのいつもだろ』
俺の他愛のないボケにもちゃんと応えてくれるところとか
一言二言だった言葉も今では長文となっていて
いつ先生にバレるのか気が気じゃないけれど
でもやっぱり心はワクワクしていた。
惹かれる要素はたくさんあった。
素っ気ない言葉の節々に感じる優しさだとか
手書きの文字はその人を表す道具のひとつだと思うから
だから俺は、知りたくなってしまった。
この文字の持ち主が誰なのか。
お互いの詮索をしないのが暗黙のルールとなってしまっているけれど
俺は、君が知りたい。
『なあ、そろそろ教えてくれよ。何組の人なの?1回くらい会って話そーぜ』
どこぞの出会い厨だよって思うかもしれないけど
どうせ相手は男だし、男相手に変かもしれないけど
文字しか知らない君を、俺は知りたくて仕方がなくなってしまった。
それがいけなかった。
何度か消されたあとに書かれた一言
初めて見た時みたいなひとりごとのように書かれたそれ
『もうやめる』
それから、返事は届かなくなった。
『ごめん、このままでいいから返事くれない?』
『おーい、返事くれよー』
何日も返事を待っていた。
気づいていなかったけれど俺たちのやり取りは一ヶ月以上続いていた。
既に季節は移り変わりを感じるほど暖かくなっていた。
「『返事くれないと呪う』…は流石にだめか」
授業中、黒板を向いていた視線を
日差しを遮っていたカーテンの向こう側へと写す。
隙間から見える眩しいくらいの快晴は
まるで俺を馬鹿にしたみたいにいっそ清々しすぎた。
正直、先生に聞いたりすれば他クラスの数学の時間に
ここを誰が使っていたかなんてすぐに分かる。
でもきっとそれは反則だ。
明確なルールなんてないけれど
それでは意味が無いと思った。
てか、そんなばっさりとお別れみたいにしなくても良くね?
考え始めたらだんだんイライラしてきた。
だって俺は会いたい!って思ったから聞いただけだ
返事は欲しいけどくれないし
…こうなったらこっちだって考えがあるんだからなー!
『もういい!俺は勝手に探すからな!!』
君と俺が本当に出会うまで
あともう少し。
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