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羽化した
どうもしない。
いきものが出てくるのを待つことにした。
寂しかった。
いきものがいないと。
毎日ただ「大好きだ」と言ってくれる、あの目と温かさに救われていたのだと分かった。
いつも歯車みたいに扱われて。
役に立ってることだけが大事で。
いてもいなくても良いもので。
恋人もいない。
血をわけた家族とも上手くいかない。
人間とはうまくやれない。
そんな自分にはいきものがとても大切だったのだとわかった
早く出ておいで。
繭にむかって話かけた。
いきものに会いたかった。
そして、その日。
真夜中。
繭は割れた。
深夜勤務に疲れはてて帰ってきた、繭を見つめているオレの目の前で。
ゆっくり音もなく割れて。
中からできたての柔らかい肌をしたモノが出てきた。
それには真っ白なまだかわいてない羽根があり
そして。
そして。
それは美しく大きな。
真っ白な男の人だった。
アレ?
と思った。
アレアレ?
と。
形が変わるのは予想していたけど、コレジャナイ感が半端ない。
ふわふわしているのはもう羽根だけで。
美しい顔は発光するような白で、美しい翠の目の色だけは変わらなかった。
でも。
綺麗だけど。
とても綺麗だけと。
コレは。
コレは。
雄だった。
どうしようもなく。
裸だから間違いなく
よけいに。
幼虫がサナギから成虫に変わるのは「繁殖のため」そんな本で読んだ言葉を思い出してしまった。
いきもの、いや、これは何?
その美しい羽根ある男はオレを見て笑った。
オレが好きでたまらないとその笑顔が言っていて、
それは間違いなく、オレの可愛いいきものだったけど、オレの背筋に寒気が走ったのも確かだった。
本能的な恐怖。
喰われる前の獲物はこんな気持ちになるのだろうか。
「ああ、可愛い、可愛いなぁ」
人の言葉をいきものは話した。
言葉が理解出来るのはわかってた。
人に似た姿になったから話せるようになったのだろう。
いきものは鳴かなかったから、おそらくあの姿の時には声帯がないのだ。
大きな男は、本当におおきくて、190センチくらいあった。
見事な肉体は真っ白なので、大理石で出来てるみたいだった。
まだ濡れた羽根と、濡れた髪はフワフワになるのはわかっていたけど、それとその目以外は前の姿と似てもにつかなかった。
男がオレに近づいてきても、逃げなかった。
逃げられなかった。
身体が動かない。
男はまだ濡れたできたての身体で抱きしめてきた。
甘い匂いがした。
頭が痺れるような。
いや、痺れて動けなかった
「これで。やっと。与えられる」
男は抱きしめてそう言って。
何を与えられるのかはわかった。
腹にガチガチになっているモノが当たっていたからだ。
でも。
でも。
痺れたように身体は動かず、悲鳴もでなかった。
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