「あっ、……──ッ!!」 　ガクガクと腰が震え、全身が硬直する。黒兎は詰めた息を吐き出すと、息も絶え絶えに雅樹を見た。 「も、もうむり……無理だから……っ」 　あれから、それはそれは丁寧に愛撫され、後ろも同じく丁寧に解され、雅樹が入ってきた。じっくり解されたので痛みや苦しさはなかったのだが、黒兎は別の意味で苦しんでいる。 「無理？　まだ射精(だ)してないでしょう？」 　そう。黒兎がイキそうになる度、雅樹は動きを止め、黒兎を悶えさせるのだ。 　黒兎は身体の内側で、ドロドロと渦巻く熱を吐き出したいけれど、雅樹がそれを許してくれない。しかも寸止めをされる度、その熱は大きくなり、少しの刺激で爆発しそうになっていくのだ。 「イキたい……、出したいよ、イカせて……っ」 　黒兎は枕をギュッと握り、懇願する。しかし雅樹はまだまだ余裕の表情だ。 「おや、さっきからきみは何度も出さずにイッてるじゃないか」 「ち、がうっ、──あ！　嫌だ……っ！」 　こともあろうに、雅樹は黒兎の先端を親指で撫でる。その上後ろも穿(うが)たれて、文字通り黒兎は悲鳴を上げた。 　すると黒兎の分身から、精液ではない液体が飛び出す。透明なそれは断続的に出ては、黒兎の下腹部を濡らしていった。太ももがブルブル震え、何とも言えない快感に、黒兎はまた枕を握る手に力を込めると、雅樹は動きを止めた。 「ああ……精液じゃないのが出ちゃったね……」 「まさき……っ、なんでこんな……っ」 　さすがにしんどくて涙目で雅樹を見ると、彼は満足そうに笑う。 「言ったでしょう。きみを泣かせたいって」 「うぁ……っ」 　黒兎は雅樹に奥を突かれ、目の前に星が飛んだ。そのまま激しく揺さぶられ、枕から手が外れてしまう。黒兎の腕は力が入らないまま宙をさまよい、しがみつくところを探していると、雅樹がその手を取った。 　雅樹はその手に口付ける。 「黒兎……きみが私を想っていた時間以上に、きみを愛すから……」 　だから、もう一度好きって言って。 　雅樹はそう言った。黒兎は頭を抱えたくなるほどの快感と恥ずかしさに、一気に涙腺が崩壊して泣きながら喘ぐ。 「まっ……まさ……っ、──き、好き……っ!!」 「……うん。黒兎、愛してる……っ」 　雅樹の語尾が上擦った。もう、黒兎の後ろも雅樹の形に馴染み、離さないとでも言うように締め付ける。ずっとずっと、離さないでいてくれ、と黒兎は繋いだ手に力を込めると、二人とも同時に果てた。 「さすがに、やりすぎだぞ……」 　黒兎はベッドに横になったまま、下着をはいていた雅樹を睨む。 　ほぼ初めてに等しいにも関わらず、今日の一回で色んなことをさせられた身としては、文句の一つぐらい言ってもいいだろう、と思う。 　けれど、雅樹はにこりと笑って余裕の表情だ。 「え？　まさか、あれで私が満足しているとでも？」 「え？　……は？」 　黒兎の額に冷や汗が浮かんだ。確かに、あれだけのことをしておいて、雅樹が達したのは一度だけ。足りないと言われれば、分かる気もするけれど。 「私はね、好きな人のことなら何でも知っておきたいんだ」 　意外と粘着質なんだよ、と言われ、人脈の外に弾かれていた時とのギャップに目眩がした。 (これ、雅樹を慕う女性が知ったらどう思うかな……) 　そんなことを考えて現実逃避するくらいには、黒兎は疲れていた。まさか、心の内に入れたら優しいどころか、とことん甘やかされて泣かされるとは。 「とりあえず、今度休みが合った時は、別荘にでも行ってのんびりしようか。そこでもっと黒兎のことを知るのも良いかもね」 　そんなことを笑顔で言う雅樹。なまじ金と権力があるだけに、本当にことを起こそうと思えばできてしまうから厄介だ。 「……っ、頼むから、普通のセックスしてくれ！」 　黒兎は堪らず声を上げたのだった。