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第51話 壊すなら、貴方の手で14(R18)

 次に黒兎が気付いた時には、埃っぽい所に寝かされていた。眩しいと思って目を細めると、自分に向けられたライトが当たっているのだと分かる。  辺りを見回すとどこかの倉庫、というか納屋のようだ。使われていないのか道具らしきものは何もなく、薄暗い空間だけがある。そして黒兎は後ろ手で縛られ、両足もロープで縛られていて動かせなかった。 「気付いた?」  突然女の声がしてその方を見る。そこには埃っぽい納屋には似合わない、黒兎でも美人だと思う程の女性がいた。どこかで見たことがある。 「初めまして、雅樹さんの婚約者の白金(しろがね)です」  ローズピンクの口紅を塗った唇の端を、優雅な動きで上げる白金は、黒兎が思い出すまでもなく自己紹介をした。品のある身なりとは裏腹に、その目には黒兎への加虐心を湛えていて、本当に自分の存在がバレてしまったのか、と冷や汗をかく。まさか婚約者自ら、こんなことを起こすなんて。 「雅樹さんは必死で貴方を隠したかったらしいけど……ちょっと遅かったわね」  こっちも色々ツテがあるのよ、と白金は腕を組んだ。するといつの間にかそばにいた男三人に囲まれ、本能的に危機感を覚え顔が強ばる。男のうちの一人がスマホを取り出し、カメラを黒兎に向け、ピコン、と音を鳴らした。動画を撮っていると分かって、更に嫌な予感がする。 「あの優良物件の恋人がコレって正直萎えたけど……私となら釣り合うし世間も文句ないでしょ。貴方は邪魔だから、ちょっと雅樹さんに顔向けできないようにしといてあげる。……あとよろしくね」  そう言って、黒兎を見下ろし去っていく白金。黒兎は彼女を目で追ったけれど、そこにスマホを持った男がカメラを向けて視界に入ってきた。 「お、結構な美人だな。『美人捜査官、敵のアジトに潜入するも逆に捕まり、凌辱を受ける』ってテーマでいくか?」 「いいねぇ。おら、お前ここに一人で潜入してナニするつもりだったんだよ?」  カメラの男の話に乗った別の男が、黒兎の頬を撫でた。途端にゾワッと悪寒が走り、顔を背けると男たちはクスクスと笑う。安っぽいAVに出てくるようなセリフに、黒兎はまさか、と両手を縛っているものをちぎろうと、もがいた。 「いい顔撮れてるぞ? 高く売れるだろうなぁ」  顎を掴まれ無理矢理振り向かされる。黒兎は顔を顰めた。気持ち悪い、ここから逃げないと。 「嫌だ! 止めろ!」 「威勢のいい捜査官だな? 私服ならバレないとでも思ったか?」  そう言いながら、男の一人が黒兎の後ろに回って上半身を起こし、シャツを捲り上げる。もちろん黒兎は全力で暴れて抵抗した。 「おお、綺麗な肌してんじゃん。若干痩せ気味だが……まあ何とかなるだろ」  男がそう言った途端、黒兎はザアッと血の気が引く。何とかなるって何をするつもりだ、とまた暴れると、もう一人が両足の上に乗ってくる。 「ほーら暴れんな? 俺たちも痛いことするのは嫌なんだ」  そう言って彼が取り出したのは、折り畳み式のナイフだ。間違えて大事な所に落としちゃうかもしれないだろ、と黒兎の股間にナイフの切っ先を向ける。恐怖と嫌悪感で混乱し、黒兎は動けなくなってしまった。 「……嫌だ……っ」  どうしてこんなことに、と黒兎は一気に涙腺が崩壊する。どうやら彼らは、雅樹の婚約者とされる女性の手先らしい。黒兎はカメラで撮った映像を脅しに使うつもりじゃ、と相手の汚さに吐きそうになる。 「あらら、泣いちゃうの? 先に不法侵入してきたのは、そっちでしょ?」 「そうそう、お仕置きしないと」 「……っ」  口々にセリフらしきことを言う男たち。背中にいた男に胸の突起を摘まれ、えも言われぬくすぐったさに混ざった嫌悪感に、黒兎は肩を震わせた。 「お? あれ? ここ感じるの?」 「ん……っ、くっ……」  男の指に弾かれ、黒兎は腰を引く。黒兎は首を横に振り、反応なんてしていないと否定した。 「でもほら」 「んん……っ」  言葉に合わせて胸を擦り上げられ、黒兎は顔を顰める。反応したくないのにどうして、と唇を噛み締めた。 「おーおー、そんなに腰を動かしたら刺さっちゃうよ?」  敏感だねーと笑う男たち。目の前でナイフの刃がギラついて、怖いと思っているはずなのに性感が高まっている自身との乖離に、黒兎は嫌だ嫌だと泣く。 「これだけ反応良いなら下も勃ってるだろ。見てみるか」  ナイフを器用に使って、男は黒兎のハーフパンツの紐を解いた。脱がせるから腰を上げろと言われ、抵抗すると、ナイフの先がお腹の上を掠める。切っ先が辿った後に赤い線ができて、黒兎は仕方なしに腰を上げた。 「あー、やっぱりちょっと勃ってんじゃん」  パンツを下げた途端、そう声を上げるナイフの男。黒兎はとめどなく流れる涙も拭うこともできずに、男たちから与えられる刺激に、ただただ耐えるしかなかった。  雅樹、助けて……。  そう願いながら、黒兎は目をギュッとつむる。複数の手が身体を這う感覚に抵抗し、何を言われても答えず反応せずを貫いていると、面白くないなぁ、と男の一人が何かを持ってきた。 「これならイケるっしょ?」  黒兎は目を閉じているので分からないけれど、見たくもないので黙っていると、ピタリと先端に何かがあてがわれる。 「お前はこれで遊んだことあるのかなー?」  ずぷ、と切っ先が何かに入り、意図せず身体が反応する。しかし男は構わずそれを黒兎の怒張にはめ、全部を包んでしまった。 「う……っ」 「やっぱコイツ反応いいな。男だけど俺も勃ってきた」 「だってよ! あとで後ろも突っ込んでやるからなぁ」  よかったな! と男たちの品のない笑い声が聞こえる。黒兎の肉棒にはめられたのは、おそらく女性器を模したオモチャだろう。それはローションか何かで濡らされていて、男の手で動かされる。 「うっ、……っ!」  ビクッと腰が動く。最初は冷たく感じたそれも、次第に黒兎の熱で温かくなり、ヌメリと吸い上げ感が増していって、堪らず呻く。  嫌だ、こんなの。  男たちは相変わらず黒兎の反応を楽しむように、身体をまさぐっていた。身体を這う手が気持ち悪いのに、嗤う声が煩いのに、強制的に性感を高められる程、自分の身体じゃないように感じる。  ──いっそこれが、雅樹だったらよかったのに。  瞼を開けたら目は乾いていた。もうどうにでもなれ。  声も感覚も次第に遠くなり、黒兎は全ての抵抗をやめた。

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