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第5話

ランディがネロとアルを連れて湖に水浴びに行った時、二人の遊びを見たと言う。 「ネロが水を操って、アルが風を起こして、色んな形を作ってたぞ。湖の水を自由自在に操ることも出来る」 リーラはサーっと血の気が引くのを感じた。ずっと隠していたことがバレてしまう。もうここにも居られないかもしれない。せっかくランディとも仲良くなったのにと、一瞬のうちに色々と考えた。 「リーラ、大丈夫だ。俺は誰にも言っていない。あいつらにもそれは話をした。それに俺があいつらと君を守る。信用してくれ」 「で、でも…」 「俺が意識を無くした時、君たちが看病してくれたろ?その時もそのような力を使っていなかったか?」 気がつかれていた。 ネロとアルでランディの身体に溜まる熱を冷やし熱を下げ、リーラは薬草を傷口に塗りその上からそっと手を置き、薬草を通じて最大限の治癒力を高めるように訴えかけていた。それをランディはわかっていたのだ。 「リーラ、君たちを守る。今話せることだけでいい、俺に話をしてくれないか?」 ランディは真剣な顔でリーラの手を握る。 リーラは今までのことをぽつりぽつりと話し始めた。 元々、隣の国に父と母と兄弟三人は一緒に暮らしていた。リーラの力は母譲りで、母も大地から鼓動を感じ、薬草から薬作りをしていた。アルとネロはまだ幼く、この頃は力を発揮することはしていなかった。 この力を特に隠すことなく小さな村で暮らしていたが、ある時その村に災害が起きた。暴風、豪雨が数日続き、山から土砂崩れが起き村は大きな被害を被った。 土砂崩れの直前に異変を感じたが、そこから逃げることも、みんなを避難させることも当時のリーラには出来なかった。大地の鼓動を感じ取り、自身の手を伝い大地に感情を伝えることができる力を持っているのに、何も出来ずに怯え、足がすくんで動けずにいた。唯一、双子の兄弟だけは守ろうと小高い丘まで一緒に避難をしていた。 リーラの父と母は、被害が大きい所に行き、村の人達を誘導している時、新たな土砂崩れに巻き込まれ帰らぬ人となってしまった。幼い双子を連れたリーラは、父と母を亡くしたと知り呆然としていた。 その後、国の役人がリーラを探し出し、ネロ、アルと一緒に連れ去ろうとしてきたことがあった。この力を持つリーラは、災いをきたす者、そのため連れ去った後は、他の国に売り飛ばす計画を立てていたと聞く。災いをきたすことを隠し、大地の鼓動を感じ取り、大地に感情を促す力を持つと大きな声で言えば、どこの国でも高値で取引できるだろうと言われていた。 力を持っていたとしても、父母を救うことも、村人を誘導させることも出来なかった。もしかしたら国の役人が言っていたように、自分が災いを起こす力を持ってしまったのかも知らないとリーラは思い悩んでいた。 ただ、幼い双子の兄弟にはリーラしか頼る者はいないため、二人も一緒に捕まった時は何をされるかわからない。それなので、着の身着のまま自国を逃げ出し、隣の国であるこの村までたどり着いた。 この村の人達は優しい。まだ子供のネロとアル、その面倒を見ているリーラを暖かく迎え入れてくれた。双子はこの村に来てから力を発揮し、リーラを驚かせたが、やはり他の人には知られてはいけないとリーラが判断し、ここではそれを隠して暮らしている。 力を発揮させたネロ、アルは水と風の声が聞こえ、時に会話も出来ているようだ。リーラは大地や草木の鼓動を感じ取り、自身の手を通じて大地や草木に感情を伝えることができる。ランディの看病で使った薬草の治療も、薬草を通じて治癒力を高めるようにと感情を伝えることができていた。 過去に父母を亡くし、村人達を災害から誘導することが出来なかったことを後悔しているリーラは、同じ過ちを繰り返さないようと強く心に決めている。 だから、この村の大地からの警告には敏感になっていて、大きな被害を受けてしまう前に村人達を避難場所へ誘導することが出来ていた。 力を知られるとまたここにも居られなくなるため、薬草を手入れしているとなんとなく災害が起こりそうだと感じるんだと、村の人には説明している。 「力を知られてしまうと、いつかまた誰かに連れ去られるようになると思うし…そうなると、別の場所に行かなければならないから…」とリーラは俯き加減で呟く。 「君は…本当に大変だったな。ひとりでよく頑張った。ご両親もそんな大変な中…双子も育てて」 ランディは立ち上がり、座っているリーラをそのまま抱きしめた。 父や母以外の人に抱きしめられたのは初めてで、今まで張り詰めていた気持ちがとめどなく溢れてきた。 久しぶりに泣いた。声を上げると双子が起きてしまうと思い、リーラは声を出さないようにランディの胸で泣いていた。 ランディはリーラそのいじらしい姿に胸を打たれていた。

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