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第15話
ランディには、昼過ぎに王宮を出て村に向かうと言われていた。ネロに小さい『水のボール』を作ってもらい、それをアルに周りを風で囲ってもらった。風にくるまっている『水のボール』はまるで、ぷよぷよした石ころのようである。
リーラはそれを一緒に村に持っていくつもりだった。水のボールを村で籠の中に入れ、王宮まで持ち帰ることが出来れば、これからの計画が上手くいく。
「なんでランディとリーラの二人だけで行くの?僕達は行かないの?」
「ルキおじさんに会いたいよ」
「ごめん。今日はライズで行くから二人なんだ。アルとネロはここに残ってて。みんなに頼んでおくから、お願いね」
二人はプクッと膨れていたが、侍女達に耳元で何か囁かれ、急にご機嫌になり、いってらっしゃいと、言い出した。
大方、ご飯かお菓子か夜ふかしで遊ぶとか言われたなとリーラは思った。
「みなさん、すみません。二人をよろしくお願いします」
「もちろんですよ。今日は泊まりと聞いております。慌てずゆっくり過ごしてきてください。久しぶりの里帰りですもんね」
「さ、里帰り?」
「そうですよ。さあ、ネロとアルはこっち来て」
「「はーい」」と元気な声がした。
「リーラ、待たせたな。準備出来たか」
颯爽とランディが現れた。会合を終えてすぐに来たのだろう。ほのかな緊張感を纏っている。それが彼の精悍な顔立ちを更に引き出している。王宮に戻ってからのランディにはますます目を見張るばかりだった。元々、力強く凛々しかったが、ここにいると国王陛下として存在感を目の当たりにする。
(ランディ、カッコよくてたまに見惚れちゃう時があるんだよな)
同じ男なのにとリーラは思っていた。
ライズに乗り、二人で久しぶりに村に到着する。ここを最後に離れてからそんなに時間は経っていないが、村の中は活気があることがわかる。新しくお医者様が来ていたり、リーラの畑も大幅に拡張されていたからだ。
あれから鉄砲水は出ていないという。
「すごいですね。何だかみんな生き生きしています。あっ、クルットさんだ」
クルット婆さんを見つけリーラは駆け寄る。ランディは、ルキおじさん達と話をしに行った。
「元気だったかい?少しふっくらしたんじゃないかい?よかったよかった」
「ええっ。本当に?太ったかな… あっ、クルットさん、草で編んだ籠だけど、一つ貰いたいんだ。ある?」
クルット婆さんの家にお邪魔すると、籠はたくさんあった。どれでも好きなのを持って行けばいいと言われ、その中から小さい籠をリーラは選んだ。ネロとアルに作ってもらった水のボールを入れるためだ。
村の人達と久しぶりに会うことが出来、リーラも嬉しかった。それに、ここの薬草畑の大地に手をつけてみると、元気な力を感じる。村の大地は温かく、力強く、包み込むような優しさを感じるのだった。
「どうした?リーラ」
後ろから声がする。振り向かなくても誰だかわかる。くすぐったいけど、それほど近い存在にランディはなっていた。
「大地が元気だなっと思って、感じてました。あっ、籠をもらいましたよ。水のボールも中に入れてみました」
王が小さな村に滞在してくれるのは、村人達の誇りになる。ランディはその事がわかっていたため、今日は泊まりになると言ったのだ。王の器の大きさを感じる
今日はリーラ達が住んでいた家に泊まることになった。あのまま残されていたので、少し埃っぽかったけど、まだまだ温かい家だ。村の人達は、ランディとリーラにあれもこれもと食事をたくさん持ってきてくれたおかげで、結構豪華な夕食になった。
二人だけの食事は初めてだったけど、相変わらずランディが笑わせてくれるので、緊張せず楽しく美味しく食べることが出来た。
二人で後片付けをし、並んで食器を洗い、笑い合いふざけ合う。
何をするのも二人だと楽しく、常に一緒にいたいと、くっつくように行動してしまう。家の中では肩か腰など、どこか必ず触れ合っている状態だ。この家が狭いので自然と触れ合ってしまうのだろうか。それとも二人きりが楽しいから距離が近づいてしまうのだろうか。
黙ってはいられず、何か思いついたように二人は喋り、沈黙にならないように駆け足で語り笑い合う。何かやることを見つけていないと、何か話を繋げていないと、一緒にいたいくせに、くっついていたいのに、なぜか緊張してしまう。
だって、後は寝るだけになってしまうから。
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