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第30話

「じゃあ、僕行くね」 「うん。気をつけてね」 あっさりとアルはクリオスの馬に乗り行ってしまった。クリオスの部隊が城へ引き上げ、残りは国王陛下の周りを堅める護衛隊が、ランディとリーラを目的地である川まで連れて行く。川では別の部隊が待っているはずだ。 目的地までの道のりの間、ランディと一緒にライズに乗り、リーラはクリオスとレオンから言われていたことを思い出していた。 ランディのことを二人は口を揃えて、 『人が変わったようだ』と言う。 以前のランディは、他人に対する思いやりや同情心がなく冷酷な人間であったという。王という立場もあるので、それもまたひとつの魅力だと言われていたが、信用している人間はクリオスとレオンだけだった。 それが、怪我をして城に帰ってきた時から、常に何かを考えている様子を見せるようになり、クリオスとレオン以外の、王に使える者や侍女達にも、ランディ自身から相談することが増えていった。相談の内容はさまざまで、深刻な水害に対しての計画から、たわいもない事まで色々だったという。 王の態度が変わってきたその頃から少しづつ、ランディへ親身になり、献身的な姿勢を見せる人が増えていった。 何がそんなに王を変えたのか皆が疑問に思い、そして、どこに毎日馬で遠出をしているのかと、ランディが日々問いただされていたある日、リーラとネロ、アルの存在をランディの口から伝えられた。 『俺が変わった理由は恐らく三人だ。そして俺は、三人を城に迎え入れたい。力を貸してくれないか』 あの冷酷非常な王が自ら力を貸して欲しいと言ったことに皆は驚き、多くの人の気持ちが、王へ協力することに動いた。王宮にいる者は一致団結し、リーラ達を迎え入れる準備を進めることになった。 それからは毎日王宮は、祭りのようだったという。王のため、リーラ達のために、皆張り切っていたそうだ。 「王になって初めてお願いしたことだから、みんな張り切ってたよな」 「だけど、ランディはリーラちゃん達を連れてくるって言ってからも悩んでた」 「ハハッ、あいつ言い出せなかっただろ?自分が国王だって。知ったらそりゃあ、びっくりするよな」 リーラやネロ、アルが、ランディを王と知った後、もし拒まれたら…って、あいつなりに悩んだらしいと、クリオスとレオンは笑って言っていた。 「双子達と遊んでるあいつを見ると、こんなに子煩悩だったのか?と思うよ」 「リーラちゃんの言うこともよく聞いてるみたいだし」 (ランディの周りにはたくさんの人がいる。みんなランディを国王陛下として認め、国民として誇りを持っているんだ…) 「リーラ、どうした?疲れたか?」 思い出していたリーラはランディの声で引き戻される。 「ううん。大丈夫です。ちょっと思い出してました」 「ん?」 「フフフ、レオンさんとクリオスさんがランディのこと、人が変わったようだって言ってました」 「チッ、あいつら。なんか余計なこと言ってただろ?」 「余計なことなんて言ってないですよ」 ランディは、怪訝な顔をして横からリーラを覗き込んでいる。 「多くの人に慕われるランディを近くで見れて、僕は光栄です」 コトンと後ろに背中を預けて、後ろから回された手を握り笑いかけると、ランディはパッと笑顔になり「君にそう言われるのが一番心地よい」と、耳元で囁いた。 「くすぐったい…」 「くすぐったくない…」 「もう、僕がくすぐったいんです」 フフフと笑い戯れ合う二人を、周りの護衛達は、見ないように努めていた。

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