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第39話
政務に戻ったランディは忙しい日々が続いていた。最近、積極的に外交活動をしているこの国は、近隣諸国から水の依頼が相次いでいると聞く。
干からびた川に水を戻し、枯れた土地に水を放つことが成功したその技術を使い、ネロ、アルの助けを借りて水不足の国へ水の輸出をしている。
この国に水が豊富にあるからこそ出来る活動のおかげで、近隣諸国と友好的な関係を築けているらしい。国もますます繁栄していくだろう。
同じくリーラも薬草から薬を煮出しするなど忙しくしていた。久しぶりにネロとアルに薬作りを手伝ってもらっている。
「最近、雪がよく降るよね」
「なんかね、このままもっと降るらしいよ。水が言ってた」
「嵐がきちゃうかもって、風が喋ってたよ」
「心配だな...」
この時期、大雪や大雨になることが多い、被害がなければいいのだが。
はぁっと溜息をつくリーラの顔を双子が心配そうに覗き込む。
「リーラ、今日ランディ帰ってくると思うよ?」
「クリオスは今日って言ってたよ。一緒に行くって言ってたから」
「うっ...うん。そうだね」
昨日はランディが帰ってこないと知り、二人はリーラの元で一緒に寝てくれた。
王宮に帰れない政務は基本、駄々をこねてでも断るランディだが、昨日は自ら外交で一日帰れないとリーラに伝えてきたので、かなり重要なんだろう。そのため、出発前は湯浴みで激しく求められ、起き上がれないかと思うほどであったが、それも数時間で回復し、すぐに寂しさでリーラの身体は埋まってしまった。
その寂しさをわかっているのかどうなのか、定かではないが双子は一緒に寝ようと誘ってくれた。
(ああ、もう…溜息なんてついて。僕がしっかりしなくちゃいけないのに)
「リーラ! リーラ、どこだ?
来てくれ!どこにいる!」
ランディが帰ってきたようだ。大きな声を上げてリーラを探している。その後ろには大臣や宰相、騎士団長の姿が見られた。
「あっ、ランディだ」
「ランディ帰ってきたよ。リーラ」
ここだよ!と、双子が大きな声を上げ、手を振っている。
大きな身体から嬉しさがにじみ出ている。外交が上手くいったのだろうか、
両手を広げ、満面の笑みでランディは向かってきた。一日会えなかっただけで寂しくなり、会えたことで嬉しさが込み上げ、リーラも笑顔になる。
大勢の人の前でも構わず、リーラを抱き上げ、そのまま政務室の方に歩き出す。
双子もクリオスとレオンに抱きかかえられ一緒に向かった。
「ちょっと、ランディ降ろしてください。みんな見てるから...」
「いいだろ?抱き上げるくらい。キスしなかっただけ褒めてくれよ」
声も態度も大きめで、リーラは赤面してしまう。
政務室に入ると、クリオスが口火を切って話始めた。
「以前から外務大臣を通じて、隣国に国書を渡していた。隣国とはリーラの生まれ育った国、シエイ国だ」
「えっ?」
リーラの顔色が変わった。
国書にはリーラ達がこの国に来た理由を書いて渡していたという。
リーラ達は力を持っているが故、迫害を受けるおそれがあるため出身国から逃げてきており、深刻な状況下にあること。帰還によってそれが悪化する可能性があると判断し、また尊厳と平和をもって生活できるような解決策として、この国に定住させていること。という内容だった。
そして、国書を受け取ったシエイ国の国王は、対面で協議を希望してきたという。
「だから俺が出向いた」
ランディはリーラの手を取り、笑顔を向ける。
シエイ国は、昔よりリーラのような力を持つ者が多くいることを認識していたという。国の中では力を持つ者がいた場合、保護するようにと伝えられているが、中々多くの国民まで浸透されていなく、また『保護しろ』というのが『捕獲しろ』にいつの間にか置き換わってしまったようだと、王は言っていた。
だが、いかなる理由であってもそのような物騒な言い回しに置き換わるのは極めて危険であり、人道ではないとランディは強く批判したらしい。また、力を持つ者がいると知りながら、その者たちを守らず、連れ去られているのを見て見ぬふりしていたのではないかと問い詰めた。
「国には、様々な考え方や価値観、文化があることは理解している。また、国民を隅々まで目を配らせることは難しい。だけど人の命を軽く扱うことは別だ。
国が滅びる前に、大いなる改善をするためにシエイ国と条約を結んできた。これからは平和に暮らしていける。ランドルフ陛下の働きかけです」
アルの頭を撫でながら、クリオスが笑顔でそう言った。
リーラ、ネロ、アルに関しては、既に我が国を基盤とし生活を始めているため
このまま我が国の国民として扱うと申し入れをしたたところ、シエイ国の王は、理解を示してくれ、「そのものが望む方向で解決して欲しい、望み通りにしてくれ」とランディに伝えたそうだ。
「これで、君たちは我が国の人間だ。ここまで進めてくれた皆感謝する」
ランディが王として皆に言葉を述べる。
リーラは驚きと喜びで言葉を失う。自国を自ら捨てる形で出てきたが、自国に戻りたくはなく、だからといって、ここにいるのも肩身が狭い思いがあった。
それが、ネロとアルはこの国の人となり生きていけるという知らせは、リーラを大いに安心させ、大きな喜びを与えた。
また、リーラ自身もいつかここ王宮を出て行くことになった後も、生まれた国に戻らなくてもよくなり、大好きな人が国王であるこの国の中で生きていけるのであれば、それだけで充分幸せだと感じていた。
「ランディ、嬉しいです。信じられない。ネロとアルがこの国でずっと暮らしていいなんて、夢みたいです。本当にありがとうございます」
「君も一緒だ。ここにいる皆がそれぞれ力を貸してくれた。君たちを守るために」
ランディが色々進めていると言っていたのはこのことだったのか、と改めてリーラは呆然としながらも考え、嬉しさが込み上げる。
「おまえらは..なんかピンときてないよな」
ネロとアルを抱き寄せてランディが伝えてるも、二人はきょとんとした顔のままであった。
「これからも、ランディとリーラと一緒にいられる?」
「でも、もう一緒に寝ないよ?いい?」
「ハハハッ、おまえらはここで一緒に暮らしたいけど、部屋はそれぞれ欲しいんだよな」
「「うん!」」
大臣や宰相、騎士団長もみんなが笑っている中、リーラは感極まって涙ぐんでしまった。
「えーっと、それと、だな…リーラ。もう一つある。こっちが重要なことだ。シエイ国の王にも許しをもらってきた...
ここじゃなくて、そうだあそこ、あそこに行こう。出来たって聞いたし、うん」
急に歯切れが悪くなり独り言のように呟くランディを、リーラは首を傾げて見ていた。
リーラの手を引き、ランディが連れて行こうとした時、ひとりの若い騎士が政務室に勢いよく飛び込んできた。
「恐れ入ります陛下。急を要する事態です。お許しください」
そう言い、ランディの前に跪いた。
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