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第43話
ガタガタとした揺れでリーラは目を覚ました。馬車の中のようだった。そばには先程の男たちが一緒に乗っている。
「どこに行くんですか?」
リーラが突然話しかけたので、男たちはビクッとし驚き「シーっ」と人差し指を立てた。
「俺たちも知らねえ。兄貴が連れて行くって言うから一緒に来た」
その兄貴は馬の手綱を引いている。
(馬車の中では前にいる男に聞こえないように小声で話せということか)
「なぁ…お前が本当にやったのか?あの雪崩れを」
「やりません。出来ませんよ、そんなこと」
ボソボソと引き続き小声で話す男たちに、リーラは強く突き放したように答える。
「だよなぁ。俺たちもよくわかんねぇけど、あんなこと出来るわけないよな」
「だけど兄貴がもう決めちゃってるから、このまま変えられないし…」
男たちは四人組だった。馬車の外には馬の手綱を引く男とその隣にもうひとりいる。
「腹減ってるか?これ、食べるか?」
「…いえ、お腹すいてないので…」
「そうか…」
「頭…痛くないか?」
「えっ?ああ、何ともないみたい」
「軽く触れただけだから、頭が痛くなければ問題ないんだが…」
そういえば首の後ろを叩かれたなと、リーラは思い出した。あんなに簡単に気絶してしまったんだと思い出す。
リーラの見張りであろう男たちは、危害を加える様子はなく、なんとなくリーラの心配をしているようであった。
身の危険を少し感じなくなり、今の状況を揺られている馬車の中で考える。
このままどこかに連れ去れるんだろうか。売られてしまうのか、ただ捨てられるのか、リーラにはわからない。
こんな形でランディと離れるのは予想外だったなと思う。自分から王宮を出て行こうと考えていた。ネロとアルをお願いして、リーラだけはひとりでひっそり暮らしていければと思っていた。
ネロとアルには未来がある。ランディも周りも双子に好意を持ち育ててくれているので、リーラと共に生きていくよりよっぽど今の環境の方がいいだろう。離れるのはつらいが、二人のためには王宮での生活の方がいいはずだ。
それに心を重くするのは、ランディの婚姻だった。そう遠くないうちにランディは妃を取るだろうと、リーラは感じていた。好きになった人が、いつか知らない誰かを妃として迎えるのを見続けることはリーラにはできない。その姿を見ながら笑顔で共に生活することはできないと思っていた。
(迷惑がかかる前にひとりで出ていけばよかった…)
早く行動を起こさなかったことに激しく後悔をするが、ランディのことを考えると、後から後から思い出が溢れて込み上げてきてしまう。あの人がいつでも手を引いてくれたこと、寝る時は必ずベッドで抱きしめてくれたこと、悩むとおでこにキスをしてくれたこと、いつもいつも気にかけてくれていたこと。
初めて好きになった人が大きすぎて、独り占めすることはできない。好きだという気持ちを伝えるつもりはなかったが、こんな形で離れるなら、せめてさよならは伝えたかった。あなたのおかげで前を向いて歩けると感謝を伝えたかった。何もかも今までランディに甘えていただけだった自分が嫌になり、後悔が更に湧き上がってくる。
これから先、どこにいても、何をしてもランディのことを思い出してしまうだろう。このまま離れるんだから、これでよかったんだと、気持ちを切り替えなくてはとリーラは強く思うが、溢れてくる涙は止まらない。離れなくてはと思えば思うほど、会いたいと思う気持ちが膨らむ。もう一度、たわいもない話をして、笑い合い、キスをしたいという気持ちが溢れ出て葛藤する。
(ランディ…会いたい。でも、これで離れた方がいいはず。わかってる…けど)
「お、おい…泣くなよ」
「えっ、頭痛くなってきたのかよ」
「どうする?兄貴に知られるぞ」
嗚咽が漏れ始めたリーラを前に、見張りの男たちに動揺が走る。
その時ガクンっと揺れ、馬車は大きく振り回され、そのまま止まってしまった。
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