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第45話

黒い塊は、多くの馬に乗る騎士達だとわかった。その中で、ひときわ殺気を放つ人物が先頭にいた。 「あ、兄貴…すげえ人数が来る!」 「ああ…そうだ!あの人達に、こいつを引き渡しちまえ。それがいい」 「いや、でも大丈夫かよ。も、もうそこまで来てるぞ!」 「な、なんか様子が変だぞ」 男たちがオロオロとしている中、リーラだけは大群から目を離せないでいた。 ランディが先頭にいる。 馬に乗って走る大群に囲まれ、先頭で走ってきた男から怒号が放たれた。 「俺の妃に何の用だ」 ランディの怒鳴り声が地響きと共にが響き渡る。雪煙と一緒に体から湯気が立ち上がり、怒りが頂点まで達していると、ここにいる全員がこの男に感じていた。 「リーラ、おいで。腰抜けたか?」 ランディは立ち上がれないリーラに声をかけ抱き上げた後、男たちを睨み上げる。男たちはその恐ろしさから尻餅をつき声も上げられず、うずくまっている。 「首を()ねておけ」 冷酷な声で指示をするランディの腕からすり降りてリーラは体を張って止める。 「ダメ、ランディ。シエイ国の人です」 「リーラ、シエイに言ってるんだ。条約結んですぐこれか。ふざけるな」 リーラを引き寄せ抱きしめながら、また周りに怒号を走らせる。怒りが収まらず今にも剣を手に取り、斬り捨てようとしている姿に騎士団も後退りしている。 「申し訳ない…」 ランディの前に跪く集団があった。 跪くのはシエイ国の王らである。 「シエイの王よ、国としての重要な問題になったな。どう責任取ってくれる。 俺の妃だとわかっての行動か?」 冷ややかなランディの物言いに、皆、身動きが取れず固まっている。 リーラを拐った男たちは震え上がり顔面蒼白になっていた。自国の騎士団、シエイ国の軍も皆震え、後退りしている。 クリオスとレオンが割って入ってきた。 「ランドルフ陛下、ここは任せていただきたい。シエイ国で罪を罰してもらう。こちらで話し合いを行い、ご報告いたします」 ランディの怒りを抑えられるのはこの二人しかいない。何とか収めて欲しいとリーラは願っていたところに、シエイ国の国王が跪きながら答える。 「申し訳なく思っている。国に連れて行き必ず罰すると約束する。条約を結んだがついこの間のこと、まだシエイの国民に浸透できていなく…」 「それが手緩いと言っている。国と国との条約だ。合意して結んだものだ。そちらの国の浸透具合など知ったことでは無い。そんなことでは、俺の怒りは収まらない。今すぐ首を刎ねろ」 冷酷な顔で、殺気を出し続けるランディを初めて目にし、リーラは目眩がした フラッと身体が倒れそうになるところをランディに受け止められる。 「リーラ、大丈夫か?」 ハッとしリーラを抱きしめたランディは少し正気に戻ったようだった。 「ランドルフ陛下、王妃をこちらに」 騎士団が馬車を用意してくれていた。 ランディが抱き抱えた時、リーラがランディに具申する。 「ランディ、酷いことしちゃダメ。 シエイ国に任せて。お願い、ね…」 そう言い終わるとリーラは意識を無くす ランディはきつく目を閉じ、深く息を吐きながら重々しく口を開く。 「そちらに任せることにする。俺は極刑を望むが、妃は酷いことはするなと言っている。どのようにするか追って報告を待つ」 殺気を抑えることはせず、怒りから体を震わせながらそう言い、周りを睨み上げた後、ランディはリーラを抱え馬車に乗り込んだ。 恐れから皆の固まる身体が解れたのは、馬車が走り去ったずっと後だったと聞く。ひと睨みで震え上がらせる魔王のような男が国王陛下であるとの噂が、近隣諸国まで後に伝わった。 そして、その魔王を抑えられるのは妃だけだということも同時に伝わっていた。

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