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第16話

俺が驚いて店主を見ると 「王族の中でも、かなり能力が高くないと出来ない魔法の一つなんだよ!」 目をキラキラさせて店主は叫ぶと 「しかも、呼応したのも初めて見たよ!」 そう叫んだ店主に疑問の視線を向けると、慌ててシルヴァが口元に人差し指を当てて『しーっ!』って言っている。 何だ?とシルヴァに視線を向けると、明らかな作り笑顔を浮かべてなんとか誤魔化そうとしている。そしてそっと俺の手を取り 「多朗、この石には守護の力が宿った。だから決して、この石を片時も離してはならないよ」 と、いつになく真顔で言うと 「かと言って、今まで指輪をはめる習慣の無い多朗には酷な事だろうから……」 そう言うと、店主に手を差し出した。 店主は黙って引き出しから銀色のネックレスを取り出すと、シルヴァの手のひらに丁重に置く。シルヴァは何やら呪文めいたものを口にしてから、俺の指から指輪を外してネックレスに通すと俺の首に下げた。 「これなら邪魔にならないだろう?」 そう言って微笑むと 「良いかい。決してこの指輪を何処かに置き忘れたり無くしたりしてはダメだよ」 と、何度も注意する。 俺がふと 「もし、置き忘れたり無くしたりしたらどうなるんだ?」 興味本位で訊ねると 「この指輪はもう、多朗の半身なんだ。元の世界に戻れなくなる」 そう言われて顔が引き攣る。 「だったら、こんな指輪なんか要らないよ」 と言うと、シルヴァが 「これは僕と多朗を繋ぐ大切な指輪なんだ。これがあれば多朗に何かあった時、僕は多朗が何処へ連れ去れたとしても必ず見つけ出す事が出来るんだ。だから、そんな事を言わないでくれないか」 綺麗なサファイアの瞳を悲しそうに揺らして呟いた。 シルヴァは俺と会話をしていて、よく綺麗なサファイアの瞳を悲しそうに揺らす。 本当に俺達は出会って良かったのか?と、シルヴァの悲しそうに揺れる瞳を見る度に思ってしまう。 「……分かった」 俺が頷くと、シルヴァは俺の頭を撫でて 「ありがとう、多朗」 って嬉しそうに微笑む。 掴み所の無いシルヴァに、俺は最近戸惑う事が多い。 多分、こいつは何か大事な事を隠して俺と接している。 それがなんなのか? は分からないけど、友達なら相談して欲しいと思うが、こいつが望む関係は『友情』では無くて『愛情』なんだよな。 だから俺も、今は気付かないフリをしてシルヴァと過ごしている。 そんな事を考えていると、店長がシルヴァに 「部屋はいつもの部屋で良いか?」 と言って、鍵をシルヴァの手に置いた。 「ありがとう、助かるよ」 そう言うと、慣れた様子で階段を上り、2階の最奥の部屋のドアに鍵を差し込んだ。 ガチャリと解錠された音が鳴り、シルヴァが部屋のドアを開けて俺を招き入れる。 「ここが今夜の寝床だよ」 落ち着いた雰囲気の部屋にベッドが二つ。 「え? 同じ部屋?」 思わず呟いた俺に、シルヴァは平然と 「当たり前だろう? 僕は多朗の警護に来たんだから」 そう答えて微笑んだ。 俺が目を据わらせると 「多朗、もしかして僕が眠る多朗に何かすると思ってるのかい?」 と言うと、肩を窄ませて 「大丈夫だよ。きみを警護する為に居るんだから、多朗に不埒な事は決してしないと誓うよ」 そう言って微笑んだ。 (……確かに、腐っても王子だしな) と思って納得した瞬間 「眠る多朗の寝顔が可愛いらしくて、ついキスしたら許して欲しいけど」 の言葉に固まる。 そんな俺の反応を見て、シルヴァが吹き出すと声を上げて笑い出した。 「多朗のその顔」 「シルヴァ、てめぇ! からかったな!」 怒ってシルヴァの背中に蹴りを入れると、シルヴァはまだ腹を抱えて笑っていやがる。 俺が頬を膨らませると、シルヴァが手を伸ばして俺の頭を撫でると 「全知全能の神に誓って、多朗の同意無しに手を出したりはしないよ」 と微笑んだ。 城から出てこうして話をするシルヴァは、王子という肩書きが無いと普通の奴で……。 明るくて気さくな良い奴なんだよなぁ~と、俺はシルヴァの背中を見つめていた。

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