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第17話

シルヴァは俺に窓側のベッドを勧めると、窓を開けて高さを確認している。 「多朗」 窓の外を見ながら俺を呼び、下を指差すと 「この高さ、何かあった時に飛び降りる事は出来るか?」 と聞かれて 「まぁ、このくらいの高さなら」 そう答えると 「了解。サシャの宿はこの街で一番立派な分、狙われ易い。防犯をきちんとしてはいるが、皆が寝静まった後は分からないからな」 と言って俺に 「もし、何かあったらこの窓から飛び降りて、あの裏路地に入ったらこの建物の3つ目の窓を叩いて助けを呼んでくれ。良いね」 そう言われて、 「その間、お前はどうするんだよ」 と聞くと、シルヴァは苦笑いして 「多朗が助けを呼ぶまでは、一人で戦うよ」 そう答えた。 「一人って……お前、王子なんだぞ? 大丈夫なのか?」 「ふふふ……多朗に心配してもらえるなんて、嬉しいな」 「お前は……」 呑気なシルヴァに、ずっと平和な国で育った俺は危機感なんて全く無かった。 しかも店主のサシャとサシャの奥さんのリラが明るくて優しくて、料理も美味いから油断仕切っていた。 リラとは、荷物を置いて一息着いた時に俺達の部屋に挨拶に来て出会った。 「まぁ、貴方が多朗?」 リラの瞳の色は薄い黄色で、シトリンの様な瞳の色をしている。 「うふふ、シルヴァ王子が話していた通りの瞳の色をしているのね」 リラはそう言うと 「今日は2人が来たなら、腕によりをかけるわね!」 と腕まくりして微笑んだ。 実際、リラの食事は王宮の料理人が作る料理とは違い、家庭料理的な感じでむしろ落ち着く味。 「美味い! 美味い!」と食べていたら、シルヴァが 「多朗は王宮の料理より、リラの料理の方が好きそうだな」 と、驚いた顔をして眺めている。 「え? 王宮の堅苦しい食事はさ、マナーをきちんとする事に気を使って味なんかわかんないんだよね。リラのご飯は、実家を思い出す味なんだよな。安心する味」 そう答えて食べ続けていると 「多朗の実家はどんな感じなの?」 リラがグラスに水を注ぎながら聞いてきた。 「どんな? ……普通の家だよ。父ちゃんと母ちゃんと俺の3人家族」 「そう、家族仲は良かったの?」 「普通かな? 悪くは無いし、かと言ってめちゃくちゃ仲良しでも無い。でも、ちゃんと愛情は感じてたよ」 俺の答えに、サシャとリラは複雑そうな笑みを浮かべた。 『帰りたいか?』と聞かれれば、ぶっちゃけ帰りたい。 和久井以外は全て知らない人の中で、寂しくないと言えば嘘になる。 でも、俺が必要とされて呼ばれたのなら、役目を全うして戻ると決めたから。 俺はフォークを置いて 「ご馳走様様でした」 と手を合わせると 「リラ、めちゃくちゃ美味かった。ありがとう」 と言い残して、部屋に一足先に戻る。 ベッドに突っ伏し、平凡万歳だった日々を思い出していた。

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