28 / 107
第28話
しばらく走ると、馬車がゆっくりと止まった。
するとシルヴァはゆっくりと抱き締めていた俺の腕から起き上がると
「多朗、ありがとう。もう、大丈夫だよ」
そう言って、いつもの笑顔を浮かべた。
シルヴァが馬車から降りる前に、俺はシルヴァの腕を掴んで
「あのさ、俺と二人きりの時くらいは王子じゃなくて良いからな」
と呟いた。
シルヴァは驚いたように目を見開くと、ふわりと微笑んで
「多朗は変わらず優しいね」
そう言うと、頬にキスをして馬車から降りて行った。
従者に何かを伝えると、おそらく今日の宿であろう建物の前に人集りが出来る。
「シルヴァ王子だ!」
子供達が嬉しそうに走り寄り、シルヴァを取り囲む。
「やぁ、みんな元気にしていたかい?」
そうシルヴァが問いかけると、子供達は口々に何かを話しはじめた。
子供達から、シルヴァが大好きだという感情が伝わってくる。
微笑ましい状況を離れて見ていると、従者達が集まってきた村の人達に物資を渡していた。
みんな深々と頭を下げながら
「シルヴァ様、我々は本当に有難いのですが……」
一人の女性が戸惑うようにシルヴァに声を掛けて来た。
するとシルヴァは優しく微笑み
「何も案ずるな。乳飲み子がいる身であろう?栄養をたくさん取らないと」
そう答えた。
すると女性は深々と頭を下げ、逃げるように家に入って行った。
どの人も、物資を受け取ると逃げるように家へと入って行く。
その異様な光景にシルヴァを見ると
「ここはルーファス公爵が王家からの依頼で治めている。私からもらった物資が見られたら、全て取り上げられてしまうからね」
そう言って、シルヴァが悲しそうに顔を歪めた。
「そんな……。だったら、そんなヤツはクビにするべきなんじゃないのか?」
思わずそう言ってしまうと、シルヴァは口元に人差し指を当てて首を横に振った。
そして俺の肩を抱くと、宿へと歩きながら
「ルーファス公爵は、他の貴族達と太いパイプを持っている。王家だけでは、どうにもならない事があるんだよ」
と、小さな声で呟いた。
街を見回すと川の先には塀があり、そこで水が堰き止められてしまっていた。
塀からチョロチョロと流れる水を、少しずつ分け合って飲んでいるんだとシルヴァが話してくれた。
俺はシルヴァに
「俺の出番だな!」
そう言うと、荷物の中の水鳥の羽を取り出して、等間隔に川があった地面に刺していく。
そして刺した水鳥の羽を、器で蓋をして行った。
俺の行動を不思議そうな顔をして見ていたシルヴァが
「多朗、手伝うよ」
そう言って、汚れるのも気にせずに二人で元々は川だった場所に、持って来た水鳥の羽を並べて器で蓋をして歩いた。
同じ体勢で腰も痛くなるのに、シルヴァは黙々と俺の作業を手伝ってくれて、日が暮れる頃に作業がひと段落着いた。
「多朗、これはどういう意味があるんだい?」
泥と汗で汚れた顔で、シルヴァが声を掛けて来た。
俺が微笑みながら
「まぁ、明日のお楽しみってヤツだよ」
と答えると、シルヴァは唇を尖らせて
「教えてくれても良いのに……」
って拗ねている。
俺はそんなシルヴァに笑顔を返すと
「明日になれば分かるから。論より証拠」
そう返事をして宿の中へと入った。
通された部屋は綺麗なのだが……水不足のために風呂に入れない事が判明。
それでも、村の人達が俺達の為に桶にお湯を用意してくれたんだ。
俺が住んでいてた世界では、蛇口を捻れば水が出てくるのが当たり前だけど、此処は水が少ないのに、俺達
の為に貴重なお水で身体を拭く為のお湯を沸かしてくれたのだ。感謝で胸が熱くなる。
俺とシルヴァは、ありがたく桶のお湯で汚れた身体や顔を綺麗にした。
ともだちにシェアしよう!