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第30話 水の神様と火の神様

昨日の汚れも綺麗になり、サッパリして部屋に戻って来ると、シルヴァが心配そうに俺の顔を覗き込む。 「多朗、何か怒っているんじゃないかい?」 そう声を掛けられて、湯上がりの上気した色っぽいシルヴァの顔をまともに見られず視線を逸らす。 「いや、全然怒ってない」 「本当に?」 ジリジリと逃げる俺と、その分ジリジリと近付くシルヴァ。 窓の外は、土砂降りの雨の音が鳴り響いて居る。 俺は話題を変える為に、窓辺に座って外を眺めながら 「雨……降って良かったな」 ぽつりと呟いた。 「そうなんだよ!半年も降っていなかったのに、何で急に雨が降り出したんだろう?」 「あのさ……、信じないかもしれないんだけど…」 と前置きをして、俺はシルヴァに自分が雨男だという話しをした。 昔から、俺が楽しみにする行事は全て雨になった。 だから同級生に「お前が来ると雨になるから来るな!」って心無い言葉を言われた事すらあるくらいだ。 修学旅行で沖縄に行った時も台風になり、関東に戻って来たら沖縄から台風が着いてきた。 俺の雨男伝説の数々をシルヴァに話し 「水鳥の羽の実験、爺ちゃんから話しだけ聞いていたから、実際にやるのを楽しみにしてたんだ。だから雨が降ったんだと思う」 そう締め括ると、シルヴァは目を見開いて黙っている。 まぁ……信じられない話しだよな……って思っていると 「凄い!凄いよ!!多朗!!!」 と、シルヴァが何故か興奮している。 「はぁ?何が凄いんだよ!今まで、同級生に雨男だからって旅行とか遊びに行くのにハブられたんだぜ」 怒って呟いた俺の言葉に、小首を傾げると 「ハブ?……なんの事かわからないけど、でも、この国では貴重なんだよ」 そう言ってシルヴァが微笑んだ。 「僕は火の神が付いていてね。晴れ男なんだ。火は水が嫌いだからね。でも、僕の火の神様よりも多朗の水の神様の方が強いなんて本当に凄いよ!実はね、多朗がサファイアの指輪を選んだのを見て、僕はずっと多朗には水の神様が付いているんじゃないかって思っていたんだ」 ニコニコして話すシルヴァに、『この指輪は、お前の瞳の色だったから選んだ』とは言えなかった。 苦笑いしている俺に 「きっと、水の神様は多朗がワクワクすると、一緒に楽しくなってしまうんだね。だから、雨を降らしてしまうんだろうな」 そう言ったシルヴァの言葉に、俺は何故か救われたような気持ちになった。 ずっと向こうの世界では雨男と嫌がられた俺を、シルヴァは素晴らしいと褒めてくれる。 「実はね、この世界で雨が降らなくなったのは、水の神様を宿した前王が亡くなったからなんだ」 シルヴァはそう言うと 「この世界には、水、火、土、風の神を王家の人間が宿して生まれる。本来なら、王家には4人男が揃って居なければならないんだけど……、父上が土、父上の弟であられるエドワード叔父様が風。そして僕が火の神を宿して生まれた。でも、僕の他に王家の子供は女の子しか生まれなかったんだ」 悲しそうに呟いた。 「稀にね、力が強すぎる王子が生まれると、他の神様が生まれなくなる事があるんだそうなんだ。で、その原因が僕なんだと言われてね。ショックだったよ」 シルヴァの言葉だけで、幼いシルヴァがその話しを聞いてどれだけ傷付いたのか安易に想像出来た。

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