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第53話
「……ろ、神代!」
身体を揺すられ、俺はゆっくりと目を開いた。
心配そうに俺を見下ろす和久井と、その隣にはサファイアの瞳をした同じ学校の制服を着た美少女が心配そうに俺の顔を見下ろしている。
「痛ぇ」
頭を押さえていると
「悪い、神代!サッカーボールが頭にぶつかったらしい」
と、サッカー部の奴等が頭を下げた。
見慣れた学校の通路に、見慣れた景色。
俺がゆっくりと立ち上がると
「お兄様、大丈夫ですか?」
って、美少女が声を掛けて来た。
俺は記憶を辿り、思い出す。
彼女は親父の再婚相手の娘で、俺の新しい妹。
そんでもって、片想いしていたのに和久井にかっさらわれたんだっけな……と、イヤな事を思い出して思わず顔を顰める。
「お兄様?」
そんな俺を心配そうに見つめる美少女に
「大丈夫だよ、エリザ」
って答えて、金色の美しい髪の毛を撫でた。
その時、立ち上がった俺の首からチェーンが切れたネックレスの指輪が転がり落ちた。
エリザと同じ瞳の色のサファイアの指輪。
「お兄様、大切な物が落ちましたよ」
細くて長い綺麗な指が、そっと俺の指輪を拾って手のひらに乗せた。
この指輪は死んだ俺の母親の形見で、お守りにしろと母親が亡くなる前に俺に身に付けさせた指輪だ。
「チェーンが切れてしまいましたね」
道に落ちたプラチナのペンダントチェーンを拾い、エリザは大切そうに握り締めた。
「きっと直せると思うので、これ、直してもらいますね」
そう話しかけるエリザに背中を向けて
「要らないから捨てといて」
とだけ答え、俺は指輪を学生鞄の中へと突っ込んで歩き出した。
学者バカの親父が、突然、海外のど偉い金持ちの人を奥さんに貰って帰国したのが去年の事。
俺は、その新しい母親の連れ子だったお人形さんのように美しいエリザに一目で恋をした。
でも、親父の奥さんの連れ子とはいえ、兄妹になるのだからと気持ちを隠し通して来た。
そんな彼女が、俺の友達の和久井と最近付き合い始めたのだ。
ぶっちゃけショックだったし、凹んだ。
それでも、俺を実の兄のように慕うエリザを悲しませたくなかった。
何故か俺は、エリザのサファイアの瞳が悲しそうに揺れるのを見るのが苦手だった。
エリザの母親も綺麗なサファイアの瞳をしていて、なんでこんな親父にこんな金持ちで美人がくっ付いた?と、七不思議の一つになっている。
しかも新しい母さんは、金持ちで綺麗で優しいんだよ!
いつだって俺を「多朗」「多朗」って可愛がってくれる。
だから俺は、この幸せを俺の勝手な片想いで壊したくなんか無かった。
住宅街にあった普通の家から、丘の上の高台にある洋館に引っ越して、家の中にはお手伝いさんまで居る生活。
家の門を開けて、玄関を開けると
「おぼっちゃま、おかえりなさいませ」
ってお手伝いさんが俺の荷物を受け取り部屋まで運ぶ。
こんな生活を一年送っている筈なのに、何故か落ち着かない。
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