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第76話

シルヴァの心は、あの日だけでも大きな傷を負っていたが、来る日も来る日も陵辱され、日に日にシルヴァの心は壊れていった。 光り輝く美しさは見る影を失い、食事も水もほとんど取らずにルーファスが自分を飽きるのを待つしか無いと願っていた。 死ぬよりも苦しい現状に、シルヴァは限界だった。そんなある日 「シルヴァ……困りますよ。貴方がそんなんだから」 そう言って、目の前に髪の毛を一束見せて来た。 それは、見覚えのある髪の毛だった。 「あぁ……」 シルヴァの目が絶望に見開かれる。 見間違える筈が無い。 シルヴァを子供のように可愛がってくれたマリアの髪の毛だった。 その瞬間、最後の心の糸がプツリと切れた音がした。 「ダメだ!シルヴァ王子!!」 最後に、11号と呼ばれていた男の声が聞こえた。 ブラックアウトしたシルヴァは、ルーファスがどんなに薬を飲ませても、何をしても全く反応をしなくなってしまった。 「チッ!とんだ誤算だ!」 ルーファスはそう言うと、抱いていたシルヴァの身体から離れて 「11号、今日はお前が相手をしろ!」 そう言うと、何も映さなくなったシルヴァの前で11号を汚し始めた。 11号を抱きながら、人形のようになったシルヴァの顔を見つめているルーファスを、11号は憐れだと思っていた。 恋焦がれ、やっと手に入れた本物(シルヴァ)を自分の手で壊してしまうなんて……と。 それでも、ルーファスはシルヴァを殺すこともせずに城に幽閉し続けた。 ずっとそんなシルヴァの面倒を見ていたのは、11号だった。 少しずつ少しずつ、シルヴァの髪の毛が金色からプラチナに代わり始め、瞳の色が綺麗なサファイアから真っ赤な血の色に変化していった。 それは、死が近い事を意味していたのをルーファスも11号も気付いていた。 こんな姿になっても、シルヴァは11号にだけは近くに寄らせてくれた。 身体を綺麗に拭いて、僅かな食事とお水を口に流し入れる。 「シルヴァ王子、あなたは生きなくちゃダメだ。あなたは、変わりきったこの世界を元に戻す役目があるんだから……」 そう語り掛ける11号に 『お前は、こいつが好きなのか?』 とエイダンが話しかけた。 11号は声も雰囲気も違うシルヴァに驚くと 「あぁ……あなたは赤い火の龍神様ですね」 そう言って、シルヴァの足元にひれ伏した。 『そんな事はしなくて良い。此処から出してはくれぬか?このままでは、俺もこいつも死んでしまう』 エイダンの言葉に11号は頷いて 「わかりました。どうか、シルヴァ王子をお願い致します」 と言い残し、11号が部屋を後にした。 しかし、その日以降、11号がエイダンの前に現れる事は無かった。 代わりにシルヴァの世話をしている男にエイダンが質問すると 「あぁ……。あいつ、この部屋の鍵とあんたの腕と足の枷の鍵を盗み出して、その場で殺されたよ」 と言われ、エイダンはショックだった。 そして、『人とは、いとも簡単に死んでしまう事を忘れていた。許せ……』と呟くと、エイダンも全てを諦めてしまったのだ。 シルヴァを慕い、一生懸命に世話をしていた健気な青年だったと……エイダンは涙を流した。 それは多朗が助けに行く、ほんの数日前の出来事だった。

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