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第89話

すると空に雲が掛かり、土砂降りの雨が降り出した。 『これでしばらくは動けまい。さぁ、行って来い』 ディランの言葉に背中を押され、馬の準備をしようとしていると 『おいおい、お前ら。馬なんかで城に行って、中に入れると思ってるのか?』 と呆れたように言われてしまう。 『多朗、お前はどうやってシルヴァを救い出したんだ?』 そう言われて、俺とシルヴァは顔を見合わせる。 「でも、俺とシルヴァは中和していたからお互いが引き合う事が出来たけど……」 戸惑う俺に、エイダンが 『多朗、お前の腹に居るだろう?強力なマテオの相方が!』 と呟いた。 俺はお腹に手を当てて 「あ!言われて見れば……」 そう言うと、シルヴァが 「そうなると、多朗だけになってしまうんじゃないのか?」 と心配そうに言った。 『お前ら、中和してんだろう?エネルギーは共有化されてるんだ。二人で行けるだろう?』 エイダンの言葉に、俺とシルヴァは顔を見合わせてから 「取り敢えず、マシューに聞いてみようか」 と呟いて、お腹に手を当てる。 『マシュー、聞こえるかい?僕達を、マテオの元へ連れて行く事は出来るのか?』 と自分の奥深い深層意識に声を掛ける。 すると俺とシルヴァを緑色の煙が包み込み 『二人共、僕に意識を合わせて』 と、マシューの声が聞こえた。 俺とシルヴァは顔を見合わせて頷くと、そっと目を閉じた。 すると、ゆっくりと城の映像が見えて来た。 王室には魔石は置いていなく、城の中を探す。 すると、何処からか泣き声が聞こえる。 『怖い……助けて……』 弱々しい声に、俺とシルヴァが思わず目を開けようとして 『待って!まだ、ダメだ』 とマシューに止められる。 『マテオ!僕だよ、マシューだよ』 マシューの声に 『マシュー?本当にマシュー?』 マテオの弱々しい声が聞こえる。 場所は……シルヴァの部屋だ! そう思った瞬間、物凄い光が俺達を包んだ。 眩しさで視界が消えてしまい、ゆっくりと光が消えるとシルヴァの部屋のエイダンが祀られていた場所に魔石が置かれていた。 黒い球体の中に、金色の龍が小さくなって泣いている。 俺は思わずその球体に手で触れた。 バシィっと物凄い静電気のような痛みが走り 「やはり現れましたか」 と、背後から声が聞こえた。 振り返ると指に魔石の指輪をはめたルーファスが現れたのだ。 その瞬間、シルヴァの身体が小さく震える。 「これはこれは、シルヴァでは無いですか」 そう言うと、ゆっくりとこちらに近付いて来た。 俺がシルヴァの前に立ちはだかると 「退いてくれませんか?シルヴァは、私の奴隷なんですよ」 クスクスと笑うルーファスを睨み付けて 「奴隷?なんの話だ?」 と答えた。 「見たでしょう?右腕に私のモノだという紋章を」 得意気に言われて、俺は小さく笑った。 「紋章?そんなモノ、シルヴァの身体には着いてない。お前の付けた呪いも、俺が握り潰してやった」 ルーファスにそう言うと、ルーファスは憎々しげに 「なるほど。お前がシルヴァの番か」 と吐き捨てると 「まぁ、構わない。何度でも、その腕に私の証を刻んでやる。そして又、シルヴァが己を捨てた時に、お前を使えば良い事だ。飛んで火に入る夏の虫とは、この事だな」 高らかに笑い、俺に魔石を向けた。 「さぁ、魔石よ。あの男の魔力を吸い上げて私にその力を寄越すのだ!」 そう言うと、魔石から黒い光が俺の周りを囲った。

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