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第92話

あの後、ルーファスは捕らえられ、シルヴァの生存が分かると国民が立ち上がり悪事を働いた貴族は全て爵位を剥奪をされた。 シルヴァは東、西、南、北の村と王都の平民代表者をその村それぞれの平民の中から選ばせ、貴族、平民の代表、王家で会議を行って全て物事を決めるように法改正をした。 西の村を苦しめていたルーファスが作った壁は全て取り壊され、ルーファスに飼われていた性奴隷には市民権を与え、それぞれに適した役職に配属した。 そうして、平和な日常が戻るまでに5年という月日を有した。 今では作物が豊富に実り、道行く人々には笑顔が溢れている。 俺は無事に元気な双子の赤ちゃんを出産して、やんちゃ盛りの子供の世話に追われている。 初めての出産、初めての子育て。 不安が無かったかと言えば嘘になるが、シルヴァを慕う人達の手助けでなんとか此処まで歩いて来た。 シルヴァは意外な程にイクメン振りを発揮し、良き国王であり、良き父親をしてくれている。 そして今日は、元気な双子の手を引いて王都の街を歩いてる。 「あ!多朗様、今日はどうしたの?」 すれ違う人に声を掛けられ 「今日はちび達の散歩」 と答えると、街の人達が金髪でシルヴァに面差しが似ているデーヴィドと、肌の色も髪の毛も僕に良く似た金色の瞳の亜蘭の周りに集まってくる。 容姿も性格もシルヴァ似のデーヴィドは堂々たるもので、笑顔で街の人をメロメロにしているが、容姿も性格も俺に似てしまった亜蘭は俺の後に隠れてしまう。 すると一人の女性が、亜蘭の目の高さまでしゃがんで 「亜蘭様、フルーツはお好きですか?うちの畑で取れたフルーツ、食べて下さいますか?」 と、美味しそうなオレンジを差し出された。 亜蘭は不安そうに俺の顔を見上げ、俺が笑顔で頷くと 「ありがとう」 と、可愛い声でお礼を言って、小さな手にオレンジを受け取った。 亜蘭のその恥じらう姿も愛らしく、思わず (うちの子天使) って心の中で呟いていると 「天使!」 って呟く声が聞こえた。 俺は目を据わらせ、当たりを見回す。 すると公務を投げ出して、建物の影から俺達を見ているシルヴァを発見。 「シルヴァ……お前……」 俺が呆れて額に手を当てて呟くと、子供達は父親が居ると気付いて俺の視線の向こうを辿り 「父様!」 と双子がシルヴァに笑顔で駆け寄る。 シルヴァはしゃがんで双子に両手を広げると、軽々と抱き上げて俺に近付いて来た。 「お前、公務はどうした?」 「え?ちゃんと今日の分は終わらせて来たよ。だから、ちょっと多朗達より遅れたんじゃないか」 そう答えて、俺の頬にキスを落とす。 「お前!」 こんな往来の注目の中で、平気でキスをするシルヴァに慌てると 「相変わらず仲良しで」 と、みんなが温かい目で見てくれているのに気付く。 この国の人達は、別の世界から来た俺を温かく迎い入れてくれた。 俺はこの人達に、どれだけの恩返しが出来るのだろうか? そんな事を考えていると、シルヴァがいつの間にか王都の人達に囲まれて楽しそうに会話している。 シルヴァの人気は相変わらずで、まぁ、中にはアンチも居るんだろうけど。 良い意味でも悪い意味でも、シルヴァはこの世界の人にとっての希望なんだとそう思っている。 すると俺の手に小さな手が握られ、気付くと亜蘭がシルヴァの腕から降りて俺の手を握り締め 「母様、早く川へ行きましょう」 と、きらきらと金色に輝く瞳で見上げた。 「多朗、今度休みを取るから、サシャのところへ遊びに行かないか?」 亜蘭に視線を向けていたら、シルヴァが俺の肩を抱いてそう言うと、ゆっくりと歩き出す。 シルヴァに抱き抱えられて、キャッキャとはしゃぐデーヴィドの顔を見ながら 「そうだね。サシャの家のアイシャは大きくなったのかな?」 そう答えると 「アイシャ?父様、アイシャの家に行くの?」 と、双子が一斉に声を揃えて叫んだ。

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