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1st Crime 4

 嫌だ!  近くにあったビール瓶を志月の右手が掴んだ。ブレる視界で男が後ろ向きに倒れるのがスローモーションのように見えた。 「…あ?」  自分でも何が起こったか分からずに、目の前に散らばるガラスの欠片を志月が見つめる。  仰向けに倒れた男の頭から真紅の液体が流れている。雨に打たれたそれは水っぽくなってザラついたコンクリートを滑り、排水溝に吸い込まれていく。 「()っちまったの?」  突然目の前で声がして、驚きのあまり志月の身体が大きく跳ねる。顔を上げると、透明のビニール傘を差した長身の少年が銜え煙草で立っていた。 「あ…ああっ…ああっ」  声にならない声が志月の口から漏れる。打ち付ける雨の中、限界まで開かれた目が両の掌を見つめる。  感触が蘇る。  打ち付けた重い衝撃、ひび割れて砕けるガラスの振動。  確かに自分は目の前で倒れるこの男をビール瓶で殴った。

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