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1st Crime 5
「…あ…あ」
そうしてもう一度ビニール傘の少年を見る。少年は志月をじっと見下ろしたまま立っている。
見られた!見られた!見られた!
お終いだ!
不意に少年が志月の腕を掴む。我を失っている志月を無理矢理立たせると、高く積まれたビールケースの間を抜け、横道に入った。
「人が来る。ここ抜け道に使う奴多いんだ」
少年は傘を畳むと息をひそめた。
確かに路地を入ってくる足音がする。
「ああ…ああっ」
夜目に紛れる黒いTシャツ、ブラックジーンズを履いた少年が、志月の背中を壁に押し付けて立たせ、覆い被さるように志月の身体を隠した。
「バカ、静かにしろ、見つかんぞ!」
少年が耳元で告げる。それでも錯乱して視点の定まらない志月は、少年の姿さえ目に入らぬ様子で言葉にならない言葉を発し続けている。
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