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3rd Crime 14

「クマ後日解体って言われただけで…」  告白の返事は聞けなかったよと伝えようとした志月の頭に暁が手を乗せる。 「取引完了、ごくろーさま」 「取引?」  意味が分からず反唱する志月に暁が緩く笑った。 「あのクマの腹ん中にクスリが入ってんだよ」 「え?!」  志月が思わず声を上げ振り返る。 「お前もこれで立派な運び屋」  茂はそれを知っていて、それであのぬいぐるみを欲しがったのかと志月が納得する。 「これで本当にこっち側の人間だな」  暁が志月の肩に腕を回すと路地の奥に向かって歩き出す。抜け道があるのだろう。 「…こっち側の」 (あんな風には生きたくない) (あんな風に生きてみたい)  暴力と、血と、クスリの世界。 「…彼女にしたい人かと思った」  ぽつりと志月が漏らす。暁が声を上げて笑う。 「バーカ俺はもっと面食いだっつーの!」  本気なのか冗談なのか分からない口調の暁を志月が見上げる。 「何それ!あの女の人すごい美人だったよ?」  少し安心したせいか、志月は暁と軽口のような言葉を投げ合う。志月の言葉に暁は「そーか?」と興味なさげに答えた。

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