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第7話 高校生など滅びてしまえ
「川井さん?」
「あ、はい。もちろん! 今度は絶対、自分らしくいられる相手と付き合えるように頑張ります!」
グッと拳を掲げると、成瀬さんは目を丸くした後で噴き出した。
「川井さんって、ノリが高校生みたいですね」
「え……」
高校生、と言われた俺はゆっくりと腕を下ろす。
一気にモヤッとしてしまい、胸の奥に陰りが落ちる。渋い顔をしているところを見られぬように、また駅の方へ歩き出した。
成瀬さんが住んでいるのは隣町で、振られてしまった気晴らしに電車でこの街へやって来たのだという。
駅前の大通りから一本脇道に入ったところをフラフラと歩いてる途中、あの喫茶店を見つけて入ってみたのだそうだ。
ちなみに東さんにぶっ掛けたのは、店の看板メニューでもある『青空のクリームソーダ』だ。
「結局あれ、美味しかったのに半分くらいしか飲めなかったんです。あの人の言う通り、ぶっ掛けるのは水にしておけば良かった」
「はは、そうですね」
「だからまたあの店へ行って、飲みたいです。これも洗濯して返したいし」
着ている服を引っ張りながら言う成瀬さんは、やっぱり社会人らしくしっかりしているなぁとしみじみとした。
「成瀬さんって、普段お仕事は……」
言い切る前に、背中がドンッと押された。
振り返ると、高校生のカップルが歩きながらスマホを見ていた。
一緒に動画を見ているらしい。
というか俺にぶつかったのに一言もなく、完全無視。
カップルは俺たちの横を通り過ぎ、去ってしまった。
「大丈夫ですか? あれ、K高校の制服ですね。俺の住む家の近くにありますよ」
「全然前見てなかったですね」
「あぁ、カップル動画上げてるんですよ。仲のいい所を見せつけて、クラスメイトや友人に自慢してるんじゃないですか? まぁそういうことするヤツらほどすぐ別れるんですけどね」
「へぇ。成瀬さん、詳しいんですね」
「……って、テレビでやってたのを観ました」
俺はカップルの後ろ姿をじっと見つめながらポツリと漏らしていた。
「高校生なんて大っ嫌いだよ……」
あ、と思って成瀬さんを見上げると、案の定、訝しむ顔をしていた。
「それってどういう……」
「気にしないでください! 適当に言っただけなんで」
言葉を濁すと、成瀬さんは少し気にしている素振りを見せつつも、こちらが答える気はないと見透かしたのか、話題を変えた。
「川井さん、良かったら今度一緒に、店に服を返しに行きませんか?」
「え」
「あれ……もしかして、もらっちゃおうって思ってました?」
「い、いやいや、とんでもない」
実はもらう気満々でした。
お詫びというわけではないけれど、店には今後多めに通うつもりでいたが、まさかこんな風に誘われるとは思っていなかった。
言われるがまま、彼と連絡先を交換する。
彼のLINEの名前は『toya』となっていた。
「十の夜と書いて、十夜 です。川井さんは、優太って言うんですね。本当にそのまんま。優しい人ってかんじ」
優しい人。
普段ならありがたく受け取る言葉だが、また嫌な記憶が蘇ってモヤッとしてしまう。
ダメだ。振られたからネガティブ思考になっているのだ。今日は早いところ帰ろう。
俺はまた連絡することを伝えて踵を返し、その場から逃げるように駆け出した。
成瀬さんの視線がしばらく背中に刺さっていた気がしたけど、俺は1度も振り返らなかった。
変に思われただろうか。
まぁいいか。もう1回会うだけの人だし。
そうだ。せっかく助けてもらったのだから、次会った時にはお礼にご飯でも奢ってあげよう。
持っている紙袋を見つめて、少しニヤリとする。
彼が自分の何倍も怒りを露わにして東さんにクリームソーダを掛けてくれたのは、正直スカッとした。
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