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第12話 嘘と真実の境界線
カウンターの腰高の椅子に並んで座り、2人で『青空のクリームソーダ』を頼んだ。
まるで青の洞窟のような色の飲み物の上に、バニラアイスがのっている。
アイスの上のさくらんぼは、甘酸っぱくてびっくりするほど美味しい。
ストローでじゅーっと吸って一口飲むと。
「うまい……これすごい美味しいです!」
優太さんはまん丸の目を大きくして喜んで、野中さんの方を見た。
野中さんは羞恥と喜悦をいり混じらせた顔でぺこりと頭を下げる。
一気に飲み干してしまいそうな勢いの優太さんは、まるで子供かペットのように見えて笑ってしまう。
「良かった。オススメした甲斐がありました」
「うん、ありがとう! どうして今まで頼まなかったんだろう。勿体無いことしたぁ」
そんなに喜ぶだなんて、俺が作ったんじゃないのに誇らしくなるぜ。
一口飲んではうまい、アイスを口にしてはうまいと呟く優太さんを見ているのは飽きなかった。
そばで向日葵のような笑顔を見ていると、自然と自分も笑みが浮かぶ。
(可愛いなぁ……って、ん?)
さっき会った時から、照れ笑いするところとか楽しそうにしてる表情を見て、無性に可愛い可愛いとは思っていたが、今の俺はまるで子を見守る親のようではないか。見返りなど求めない無償の愛を捧げているみたいな……。
いや、違う。
俺は優太さんのことを可哀想な人だと思っているのだ。
これは愛情では無く、同情だ。
この先訪れる不幸を何も知らない呑気な優太さんを見て、内心ほくそ笑んでいるのだ! ハーハッハッハ!
「十夜……さん、どうしたの?」
「十夜でいいですよ。いや、美味しすぎて笑いが出ちゃって」
内心で笑っていたつもりが声に出ていたようだ。
変に思われただろうが気にせずこちらから話題を振る。
「あのクソ彼……元彼氏さんからはあの後、何か連絡は来たんですか?」
「いや、特には。俺のことなんて忘れて、彼女と楽しくやってるんじゃないかな」
「そう考えると、腹が立ちますね」
「いいや、全然。十夜が助けてくれただけで十分」
眉を八の字にして笑っているけど、たぶんこれは嘘の笑いだな、と見抜いた。
本当は悲しいくせに、強がっちゃって。
本音を隠すことがこの人にとって当たり前になっているのだろう。これは深く掘り下げる必要がありそうだ。
「優太さんて本当に優しいんですね」
嫌味のつもりで言う。
すると俺よりも小さな人は「……そんなことないですよ」と今日初めて傷付いたような声を出した。
この前も思ったけれど、優しい、というワードに何か引っかかるものがあるみたいだ。
しゅんとした空気感を払拭するように、彼は大学のことや、ライブハウスでバイトをしていることを話し始めた。
俺が聞きたいのはそれではないのだが。
まぁまだ時間はたっぷりあるし、焦らず行こう。
喫茶店から出た後はチェーン店のハンバーガーショップへ向かい、そこで500円のバーガーセットを優太さんに奢ってもらった。
「十夜、本当にここで良かったの?」
「と言いつつ、ここで良かったって安心してるでしょう」
「え! まぁ、正直、高級イタリアンとか連れてけって言われたらどうしようって思ってたけど……十夜のことだから、普段はいいもの食べてるんだろうし」
昼はほとんど100円のクリームパンですけどね。
席に座り、2人でガブリとハンバーガーに噛み付き、ポテトをモソモソと食べる。
「あー、懐かしいなぁ。こういうジャンキーな食べ物、何年ぶりだろう」
俺は大袈裟に感動してみるが、あの2人とつい先日食べたばっかりだ。
「十夜って、普段はどういう仕事をしてるの?」
「古本屋で働いてる。曾お祖父さんが始めた書店を父親が継いだんです」
「え、じゃあ十夜もその店を継ぐの?」
「まぁ、その予定かな」
「すごい!」
いやいやそんな、と謙遜するが、こんなの真っ赤なデタラメだ。
古本屋で働いているのは本当だけど、継いだというのは店長の話で、俺は単なるアルバイト店員だ。
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