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第13話 嫌いな理由を教えてよ

「古本屋では普段、スーツを着て仕事してるの?」 「あぁ、普段はラフな格好ですけど、あの日はスーツで出かける用事があって」 「ふーん? その古本屋ってどこにあるの? 今度見に行ってみようかな」 「それはちょっと恥ずかしいんで」  頑なに教えようとしない俺にちょっと食いついたが、優太さんはすぐに「ざんねーん」と全く落ち込んでいない様子で引いた。  少しの沈黙が落ちるが、店内は賑わっているのでさほど気まずくもない。  隣はノートパソコンで仕事をするサラリーマン、その隣には、あどけなさが残る顔立ちの女の子2人が向かい合って座っている。私服だがきっと高校生だ。  俺は目線をもう1度、優太さんに移す。 「高校生のころ、何かあったんですか」  単刀直入に言うと、優太さんの目がわずかに動揺の色を宿した。 「え、どうして?」 「高校生なんて、大っ嫌いなんでしょう?」  あの時優太さんが言っていたニュアンス通りに言うと、彼は逡巡したのち、ハンバーガーを持っていた手をトレイの上にゆっくりと下ろした。 「あんまり、言いたくないんですけど」  また敬語に戻ってしまうくらいに動揺している。  やはりイジメなどを受けていたのだろう。  嫌な記憶を呼び起こさせてしまって悪い気がしたが、優太さんはポツポツと語っていった。 「俺、ご存知の通り、人とは少し違う性癖の持ち主で、これまで人を好きになったとしてもそれを公にすることは絶対に無かったんだけど」  それはそうだ。  理解と優しさで溢れる世界があればいいけれど、そんなのは架空の話で、現実は厳しい。  人と違った面があり、それが他人の理解を得にくいものだとしたら、俺だって隠し通すに決まっている。 「高校生の頃、好きになった男がいて……同級生だった。気を付けてはいたけど、やっぱり好きな気持ちがバレていたみたいで。ある日、その男が俺に言ってきたんだ。もしかして俺のことが好きなのかって」 「……それで?」 「最初は否定してたんだけど、『嘘だろ』とか『本当のことを聞かせて欲しい』とかしつこく食い下がってきたから、つい本音を言っちゃったんだ。そうしたらなんと、『俺もずっと好きだった』って言われて、お付き合いが始まって!」  優太さんは、信じられない! とでもいうように両手で頭を抱えて目を丸くしたので、こちらも笑ってしまう。  なんだ。じゃあその大好きだった彼氏と別れたことが、高校生嫌いに繋がったのか。  そこまで面白くもない、とても単純な話だったと自己完結をしようとするが。  優太さんの目から光が失われていく。 「それから、半月も経たないうちに、彼の家へ呼ばれて。部屋に入って早々、彼はベッドに寝転がった。おいでって言われたから、ドキドキしながらキスしようとしたのに、大爆笑されて」 「は?」 「冗談だろって。男同士でする訳ねぇじゃんって。馬鹿なのって。キモいんだって。俺、そのまま部屋を飛び出して。次の日から、『男友達を無理やり押し倒した危ないヤツ』って噂されるようになって。俺、俺……結局、これっぽっちも好きになってもらえてなかった。全部、彼の友達に筒抜けだった。告白も、手を繋いだことも、ベッドでキスしようとしたこととか……」 「ゆっ、優太さん! あ、違うんです、目にゴミが入っちゃったみたいで!」  目に溜まっていた涙を頬にポロッと落とす優太さんの隣に座っていたサラリーマンが、訝しむように俺を見てきたので言い訳をする。  鼻をすする優太さんに紙ナプキンを渡して、涙を拭ってもらった。   「あーあ、俺また泣いちゃった……十夜の前では泣いてばっかりだよ……」  目の周りを赤くさせ、潤んだ瞳でこちらを上目遣いで見つめる優太さんと目が合うと、胸がギュンと甘く痛くなった。  どうかそんな風に見つめないでくれ……!  なぜか心臓が痛くなるから……!

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