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第17話 新たな自分は楽しくて
時間になったので再度シャワーでカラー剤を洗い流す。
しっかりトリートメントもしたあと、ずっと怖くて見れなかった鏡を覗き込んでみた。
白い肌に、透明感のある淡いさくら色。
何度か手ぐしで整えながら、鏡に顔を近づけて見入ってしまう。
あれ、意外といい感じ……?
ドライヤーで乾かすと、濡れていた時よりもより鮮やかに色が映えて見えた。
戻ってきた俺を見て、十夜は「おぉ」と驚きと感動を混じらせたような声を出す。
「いいじゃん。よく似合ってる」
俺は嬉しさが混み上がり、ぱあっと花が咲いたような笑顔になってしまう。
「あっありがとう! 十夜が背中を押してくれなかったら、こんな風にはならなかったよ! 十夜のおかげだよ!」
「……ん。別に」
十夜は視線を外して、恥ずかしそうにしていた。
ちょっと、子供みたいにはしゃぎ過ぎたかな。ごめん十夜。
だが俺は興奮が抑えきれず、気持ちは富士山よりも高いところにあった。真っ暗闇の部屋のカーテンが開け放たれ、眩い光が差し込んできた気分だ。
初めて見る、新しい自分。
調子に乗って、たくさん写真を撮ってもらい、届いたピザを食べながら缶ビールを1本開けてしまった。
冷蔵庫に常備していたもう1本を十夜にも勧めたけど、下戸で味が受け付けないのだとのこと。残念。
ピザはLサイズだったけど、2人であっという間に平らげた。
アルコールもきいて、ますますフワフワと心地良い気分になってくる。
「優太さん、ちょっと酔ってる? 鼻声だよ」
「分かったー? 俺、すぐ酔い回っちゃうんだよね」
いつの間にか敬語が抜け落ちた十夜が近い存在に感じられて嬉しい。
そして俺は抜群に酒が弱い。アルコール度数たった5パーセントでほろよいです。
「ふーん……」
十夜はなぜか含み笑いをして、俺の肩に腕を回してきた。
「優太さん、俺のこと誘ってんの?」
「えっ誘……?! そんなことしてないよ!」
「だってこんなカッコイイ俺と2人きりだっていうのに、強くもないのに酒飲んじゃって。もし俺に襲われたりでもしたらどうすんの?」
「十夜がそんなことするはず無いし」
というか早く、体を離してほしい。
少し顔を横にずらせば艶っぽい唇と触れそうになるので、オロオロと視線が泳いでしまう。
こんな俺を揶揄うように、ますます体を密着させてくる。
「へぇ? 随分と俺のこと信用してるんだね。出会ってまだ2回目なのに」
「でも、なんとなく分かるよ。だってあの時俺を助けてくれたんだから。それに十夜はノーマルなんだから、変な雰囲気になるなんて絶対にないし」
俺がきちんと、うねりを大きくせずに自制していればね。
十夜は不服そうにしながらも、体を離してくれた。
「ふぅん、そう。俺とそういう雰囲気になることは絶対にないのか。じゃあ俺、今日泊まっていくから」
「え! 泊まってくの?」
「何か問題ある?」
「いや、ないけど……」
俺に選択肢はないんですか。
心の内を何もかも見透かしそうな強い瞳で真っ直ぐに見られ、少々たじろいでしまう。
一体、どういうつもりなのだろう。
意外と図々しい面があるところは、正直言って嫌いではないけど。
これが十夜なりの他人との距離の詰め方なのか。
普通、俺の性癖を知ったら関わりたくないと思うはずなのに。
十夜って、やっぱり俺のこと……
自分勝手な男に急に振られた可哀想な人だから、自分が慰めてあげなくちゃって思ってるんだろうな。
十夜は本当に、優しい人だ。
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