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第20話 クリームパンと十夜の恋

 とまぁそんな気持ちなので、今度俺はそのバカ優太に制裁を与える。  飲み屋でベロベロに酔わせてからの放置だ。  道に迷おうが路上で寝て補導されようが関係ない。  1度痛い目を見てもらい、自分がいかに能天気なのかを知らしめてやるのだ。  ま、まぁ、昨日酔って赤い顔をした優太さんが思いのほか可愛かったので、もっと見てみたいという気持ちも無きにしも非ずだが。  それから始発で家に帰り、週明け。  俺はクリームパンを食べながら、ピンク色の頭をした優太さんの画像を2人に見せた。   「いい感じじゃん。悪い人じゃなさそうだな」 「うんうん、ピンクが超似合っちゃってるし、髪伸ばせば女みたーい。俺、友達になりたいかも」  新とケンに絶賛される優太さんを見て、ふふんとなぜか誇らしくなる俺。  だがそれを表に出すのは小っ恥ずかしいので、あえて興味の無い素振りをする。 「けどこの人、缶ビール1本で超酔ってさ。誘ってんのって訊いたら、そんなことないよぉとか言って笑ってんだぜ。能天気過ぎ」 「えー、マジ? それ絶対狙ってんじゃん! そういうあざとい奴マジキモイんだけどー」 「おい! キモイとか言うな!」  ケンのふくらはぎに蹴りを入れると「えぇ? あぁはい、ごめんね」と納得いかない顔で謝られた。  俺は優太さんがゲイではなくバイだということ、高校生が嫌いな理由等を2人に伝えた。  不意にキスをしてしまった失態は隠したまま、スマホをポケットに仕舞う。   「で、今度、一緒に飲み屋に行こうかと」 「お、いいね。そこでもっと酔わす作戦?」  新はニコリとしながら、いつものように自然な動きでケンの卵焼きを口に入れている。 「酔わして放置プレイしようかと」 「えーっ、そんなことしたら優太くん可哀想」 「とか言ってケン、楽しそうじゃねぇか」 「優太くんを放置して、もし危険な目に合っちゃったらどうすんの?」 「いいんだよ。あの人ちょっと無防備な所あるから。1回痛い目見てもらおうと思って」  寝言で『東さん、ごめんね』と言いながら涙していた優太さんを思い出してしまい、少しムカムカとする。  クリームパンをちぎって口に入れ、コーヒー牛乳で流し込む俺を見た2人は顔を見合わせて笑った。 「十夜は優太くんのことが好きなんだねぇ」  ケンの思いがけない言葉に「あぁ?!」となる。 「俺がいつそんな風に見えたよ?!」 「今だよ、今。お前、好きにさせるとか言っといて自分が好きになってんじゃん」 「なってねぇ!」  余計な一言を付け足してきた新のことも、ガルルルと獰猛な肉食獣のように睨んだ。  俺が? あのバカで適当にヘラヘラしてる優太さんを好きだって?   とんだ笑い話だ。草100個つけるわ。 「俺たち、応援するよ、十夜の恋。次会った時に気持ちを伝えられるといいね……!」 「だから俺はあの人がムカつくだけで、そういうんじゃねぇから!」  そう。俺はバカ優太がイラついてムカつくのだ。  だから目が離せない。  それに俺はノーマルだ。性別を超えることは絶対に有り得ないし、優太さんだって言ってたじゃないか。どんなに密着されたとしても、十夜を好きになることは絶対に……って……。  だからそこでどうして俺は、虚無って胸が痛くなるんだ?  ケンと新はその答えをすでに知っていた。  俺だって、自分の中の何かが動き始めている気がしてならないが、あえて耳と目を塞いだ。  目を閉じると、喫茶店のマスターがミルで豆を挽いているシーンが浮かんだ。  豆がだんだん細かくなって、香ばしい香りもふわっと広がって幸せを感じる。  注ぎ口が細くなったコーヒーポットを持ったマスターは、ドリッパーに入った粉の全体にお湯が行き渡るよう、円を描きながら少しずつ丁寧に注いでいく。  時間はかかるけど、コップには美味しい幸せが満ちていく。そうそれはまるで、俺が優太さんを可愛いと思うポイントが少しずつ加算されるように……  ハッとなって目をあけ、首を横にふった。  相変わらず2人は、ニヤニヤしながら俺を見ている。  やっぱり、俺が優太さんを好きだなんて草1000個デス!!

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