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第21話 距離が近くて嬉しいぞ side優太

 -side優太-  緊張気味にドアを開けると、まず掃除や事務作業をしていた3人の目線が一気に集まった。 「え? お前、優太?」 「うっそ、髪染めたのー? すごいピンクだねー!」  バイト仲間の男女は俺の髪を触ってワイワイしてくる。 「うん。どうかな」 「すげー似合ってる! 黒髪よりもこっちの方が100倍いい!」  100倍て。  ちょい複雑な気分であるが、ありがとうと礼を言って別れ、奥へ進む。  バイト仲間に挨拶する度、みんな俺の変わりように目を丸くして話しかけてくれた。アットホームな雰囲気と、明るく楽しい仲間たち。  ここは俺のバイト先であるライブハウスだ。  ステージでは今日出演するバンドが逆リハをしていた。そこを横切ってスタッフルームへ入ると、今度は店長にも同じようなリアクションをされた。 「川井?! どしたんその頭!」 「あぁはい、ちょっとイメチェン的な……」 「匠志(たくし)みたいだなー。もしかして?」 「はい、好きだから、真似しちゃいました」 「それ聞いたら、匠志きっと喜ぶぞ。同じ頭ですねーって話しかければ、すぐに仲良くなれるかもよ」  わしゃわしゃと頭を撫でられて面映ゆい気分になる。俺の大好きなバンドはもう来ているらしい。  そこのギタリストの匠志くんはピンク色の髪。  匠志くんはつまり、俺が尊敬してやまない人だ。  今まで何度かスタッフとして最低限の挨拶をしてきただけだったけど、今日はとうとう話しかけてみようか。  身支度を済ませ、ドキドキしながらCスタジオのドアの前に立つ。  なんだかメンバーで話が盛り上がっているらしく、中からは陽気な笑い声が漏れてきた。  よし。今ならいける!  俺は意を決してドアを開けた。 「おはようございます! 今日はどうぞよろしくお願いします!」 「はよーございまーす。あれー、髪色変えました?」  俺と同い年でもあるボーカリストの彼は、ピンクを見てすぐに反応した。  俺はえへへ、と頭を掻きながら室内を見るが、そこに匠志くんの姿は無かった。どうやら外に出ているようだ。  会えなかったことに少しホッとしたような、残念なような気持ちでスタッフルームへ戻り、今日のスケージュールを確認した。  夜18時からライブが始まる。  これから沢山のお客が押し寄せるので、トラブルなく穏便に過ごせたらいいな。  匠志くんのいるバンドは残念ながら見れなくて、音漏れだけで楽しんだ。  全ライブが終了した後も片付けや見送りに追われ、慌ただしくしていた時。 「あ、いたいた。あのー、川井さんですか?」  背後から声を掛けられたので振り向くと、なんと匠志くんがそこに立っていた。  思いがけない登場に、一瞬で熱があがってしまう。 「そうです! あの、俺の名前……?」 「店長からさっき聞きました。なるほど、黒髪も良かったけど、よく似合ってますね」  黒髪の自分もちゃんと覚えていてくれたんだと思うと、嬉しくて胸が高鳴った。  ふわふわのピンク色の頭に、トレードマークでもある黒縁丸メガネ。  これまた無地の淡いピンクのTシャツ、黒の細身のパンツに赤いスニーカー。匠志くんのその細身の体も優しそうなタレ目も何もかもが尊くて、目の前にいるのが夢のよう。  これは、自分の気持ちを伝える絶好のチャンスじゃないか?

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