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第22話 思いがけずに仲良くなる

「ありがとうございます。実は俺、匠志くんにずっと憧れていて」 「えぇ、マジですかー!」  匠志くんは大袈裟に声を上げたあと、噴き出した。 「って驚いたフリしましたけど、知ってました。それも店長に聞いてきたんで。憧れてるだなんてあんま言われないから照れるな。けど、嬉しいです」  へへ、とはにかんだ匠志くんは可愛くてかっこよくて、キュンとした。  俺はここぞとばかりにアピールをする。 「匠志くんのギターの音色も好きだし、バンドも最高です! もちろん、匠志くんのこともかっこ良くて好きだし……って、男に言われても嬉しくないですよね」 「いいや、好きだって言われたら性別関係なく誰だって嬉しいですよ」 「あ、ありがとうございます……!」  ピンク頭の俺たちは、しばらく照れたり褒めたりを繰り返した。  俺が仕事中じゃなければもっと話していたいけど。  匠志くんは空気を読んだように、徐に財布から名刺を出した。 「もし良かったら、友達になってください。いつでも連絡して大丈夫だから」 「えっ! う、嬉しいです!」  名刺にはLINEのIDが載っていた。  お別れをしたあとも、俺はニヤニヤがずっと止まらないまま仕事をこなし、上機嫌でライブハウスを出た。  早速、匠志くんにLINEを打ってみた。  10分くらいしてから【良かったら今度、打ち上げに参加してください】と返信が来て、また舞い上がってしまう。  社交辞令だと分かっていても、そんな風に言ってもらえただけで嬉しい。  温い風が頬を撫でると気持ちよくて、散歩しながら帰ろうと、いつもとは違う道のりを歩いた。  スマホを弄りながら、そういえば十夜と飲みに行くんだったなと思い出し、数日前のやり取りのトーク画面を開く。 【こんちは~☆】 【今度飲み行こ\(^O^)/】 【いいよ!】 【でも、十夜飲めないのにいいの?】 【いいのいいの】 【店はこっちで決めとくわ】    やはり十夜はLINEだとはっちゃけるから面白い。  本来の彼はこっちの性格なのか、それとも実際に会った時の十夜が本物なのか。まぁどちらにしても優しくて頼もしい人には変わりないし、面白いから良しとしよう。 「あれ、フェルマータまだやってる?」  喫茶店の明かりが点いているのが遠くから見えたので、近付いてみた。札はCLOSEだけど、ドアのガラス窓の向こうに野中さんの姿が見える。奥でなにやら作業をしているようだ。  しばらく見つめていると目が合ったので、ぺこりとお辞儀をして立ち去ろうとしたら、野中さんはこちらに寄ってきてドアを開けてくれた。 「こんばんは」 「こんばんはっ。すいません、覗いちゃって」 「いいえ。良かったら何か飲んでいく?」 「いいんですか?」 「もちろん。お金は取らないから」  今日はたくさんいいことがあるなぁ。  ラッキー♪と思いながら中に入り、前来た時と同じカウンターの隅に座った。BGMは流れておらず、照明を落としているようで、ほんの少しだけ薄暗い。いつもとは違う非日常的な雰囲気にわくわくする。 「優太くん、雰囲気がずいぶんと変わりましたね」 「あぁはい。思い切りました。この間、ここに来た日にあの人に染めてもらったんです」  野中さんがミルクを温めている間に、十夜の話をした。彼が染めるのを手伝ってくれたり、一緒にピザを食べたり。そして仲良くなりたいと言われたことが嬉しかったことを伝えた。 「良かったですね。そんな風に言って貰える人に会えて」 「はい。今度また会う約束してるんですけど、十夜は本当に優しくて」  口の端を上げながら、カフェオレの入ったカップをテーブルに置かれた。  慈愛に満ちた瞳で見つめられた俺はハッとなる。 「そういう、相手じゃないですよ」 「そうなんですか? 僕はてっきり」 「単なる友達です」  赤い顔をしながらいただきマースと言って、カフェオレを飲んだ。  野中さんは俺の性癖を知っている数少ない知り合いだ。  そういえばこの人も、特殊な性指向なのだとさらっと俺に暴露していたが。

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