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第24話 ピンクが落ちてオレンジ色
「優太くんは、もう恋人探しをしてるの?」
「いえ、まだです」
「十夜くんはどうなの?」
「ないです、ノンケだし。それに俺、今度は女の人と付き合う予定なんです」
やはり今まで俺はゲイだと思っていたようで少し驚かれたが、どんな形であれ幸せになれるように応援してくれた。
東さんとの馴れ初めを話し終えた頃、とんでもなく長居していたことに気付き、帰ることにした。
「またいつでも来てください。良かったら十夜くんも一緒に」
「はい! 今度飲みに行く予定なので、その時に伝えておきます」
「え、飲みに?」
笑っていた野中さんの顔が一瞬ポカンとした。
何か考えるようにじっと見つめてきたので、言い訳するように俺は笑った。
「大丈夫です、飲み過ぎないようにしますから」
「あぁ、そうではなくて、十夜くんも飲むの?」
俺は酒がバリ弱いということを話したので、そのことを気にしたのかと思ったら、どうやら別の部分らしい。
「十夜はお酒が苦手だから、俺だけ飲むことになっちゃうんですけど」
「へぇ、苦手なんだ。ちなみに十夜くんって歳はいくつくらいなの?」
「確か、27歳です」
「へぇー、僕の2個下なんだー。じゃあ優太くん、彼が酒を飲みそうになったら、ちゃんと止めるんだよ」
「え? はい、味が受け付けないって言ってたんで、飲むことは無いとは思いますけど、分かりました」
「頼むね」
念押しされながら別れ、帰路につく。
少し違和感を覚えたけれど、今日はラッキーデーだったことを噛み締めたら、そんなのはすぐに消え去っていた。
十夜と飲みに出かけたのは、それから2週間後のことだ。
場所は自宅の最寄り駅前の焼き鳥屋を指定された。
今日は早めに家を出たのに、彼はもう待ち合わせ場所に来ていた。
さすが大人の男。優しい。
久しぶりに見る十夜は、相変わらず格好良く感じた。
「あれ。優太さん、髪色変わったね」
俺を見るなり、十夜はそう言って首を傾げる。
それもそのはず、染めてから時間が経った俺の髪は、当初の綺麗なピンク色とは程遠い、ほぼ金髪に近いオレンジ色へと変わっていたのだ。
「うん。ピンク色が抜け落ちちゃったみたいなんだ」
「カラーキープシャンプーで洗ってないでしょ?」
「えっ何それ、そんなのあるの?」
「色落ちしないように、ピンク系の頭にはピンクシャンプー使うんだよ。そしたら持ちが良くなる」
「えーっ! そんなこと、十夜この前言ってなかったじゃん!」
「……うるせぇな、それはそれで似合ってるし、今度またピンクに染めてやるから離せ」
「あぁ、ごめん」
俺は掴んでいた十夜の腕を離した。
十夜は眉根を寄せながら顔を背けて、メニュー表に視線を落としているが、ページを行ったり来たりしていて落ち着かない。
あれ、ちょっと顔赤い?
照明のせいだよな、と思いながら注文した飲み物で乾杯をした。
俺は度数3%のシャンディガフ、十夜はコーラだ。
一口飲んで息を吐く。甘くなくて美味しい。
「美味しそうだね」
ふと顔を上げると、ジョッキを興味津々に見つめている十夜がいた。
「うん、ビールにジンジャーエール足したやつだから、ちょっと苦味があるけど飲みやすいと思うよ。一口飲んでみる?」
「……みようかな」
ごくりと唾を飲むような仕草をして、十夜はグラスに手を伸ばす。
こつんと指先が触れたところで、俺はグラスをさっと引っ込めた。
「やっぱダメ。俺、野中さんに言われたんだった。十夜がお酒を飲みそうになったら、ちゃんと止めてねって」
「え?! 何それ、いつ言われたんだよ?」
「この間、店に行った時」
他に何か言ってたかとか、俺のことで何か話したかとか、十夜はしつこく尋ねてきた。
そこまで掘り下げては話していないことを伝えると、どこかほっとした様子でコーラをジュージューとストローで吸っていた。
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