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第25話 嫉妬とムカつき、作戦実行 side十夜

 -side十夜-  さて、どうしたものか。  俺はほんのり頬を染めた優太さんが、好きなバンドについて熱く語っているのを耳から零しながら考え込んでいた。  フェルマータの店主、俺に絶対酒を飲ませぬように念を押していただなんて、俺が未成年だと知ってのことではないか?  だが優太さんはもちろん、野中さんにも本当の年齢は明かしていない。  どこから情報が漏れたんだ。  新かケンか?  もし勝手に喋ってたら、マジではっ倒してやるぜ。 「初めてそのバンドの曲を聞いた時からファンでね! すごくカッコイイんだよ! 無料配信もたまにしてて、最初の方の動画で言ってたのはジェンダーレスのことなんだけど、それでますます気になるようになって」  はいはい、とにかく大好きだってことを言いたいんだろ。  俺はバリバリ興味があるフリをしてにこやかに笑う。  話に夢中になっているので、優太さんはさっきから酒が進んでいない。もっと飲んでもらわないと、計画が失敗になってしまう。   「優太さん、同じの飲む? 頼んでもいい?」 「うん、ありがとう! 十夜って本当に気が利いて優しいよね」  えへへ、と歯を出してにこーっと笑まれた俺は、鼻血が出そうになるくらいに顔に一気に熱がいった。  なんだよクソ。相変わらず可愛いじゃねぇか。  頼んでおいたエビとマッシュルームのアヒージョを食いながらコーラを飲んで、胸のドキドキを抑えようと試みる。  平常心でいこう。  今日の目的はこの能天気野郎の可愛いポイントを加算させていくことではなく、この人に痛い目に合ってもらうためなんだから。 「それでなんと、匠志くんの方から話しかけてくれたんだ! LINEも交換したんだよ」  右から左へ流していた長話だったが、それだけはしっかりと聞き取れた。  相変わらずヘラヘラと嬉しそうに笑っている優太さんに、ちょっとむっとする。 「ふぅん。良かったね」 「うん! 十夜が髪をピンクにしようって言ってくれた時から、色々といい事が起こってるんだ。十夜には本当に感謝しかないよ」  気付かぬ間に俺に唇奪われといて何言ってんだか。 「今度匠志くんのバンドの打ち上げに行けたらいいなぁ」と夢見心地に呟いたのを見て、さらに胸がキリキリと傷む。  よし、決めた。  ベロベロに酔わせてからの公園のベンチに放置で朝まで野宿コースだ。  そんで風邪引いて寝込め。  その風邪も長引け。 「優太さん、女の人と付き合いたいとか言っといて、そいつと仲良くなってどうすんの?」 「え? どうすんのって、純粋に友達になりたいと思ってるよ? その人は憧れてて尊敬してるから、恋人にしたいって訳じゃないんだけど……」  不思議そうに見つめ返されて、あぁ、と俺はため息を吐く。  何、八つ当たりしてんだ。  優太さんがバイだからって、誰彼構わず恋愛対象に見るわけじゃないだろうに。  やはり俺はこの人を目の前にすると調子が狂うし、感情がやたらと揺さぶられる。   「悪い、何でもない。ほら、俺に構わず飲んで」 「うん、ありがとう」  優太さんは言われるがまま、アルコールを口にした。  優太さん家の最寄り駅の店を選んだから、安心しきっているのだろう。多少酔ってもすぐに帰れると見込んでいるのだ。  その考えの上をいくのが俺だ。  そんな考えが無駄になるくらいに酔わせてやる。  策略は成功し、2時間もすれば面白いくらいに酔っ払ってくれた。

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