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第31話 早く彼女を作ってね

 俺はふぅっとこっそりため息を吐く。  もう、いっか。  だってすでに2回してるんだもん。  脱力して目を閉じると、十夜の舌が唇を割って中に入ってきた。  濡れた舌先同士が触れた瞬間、背中にピリッと甘い電流が流れて声を上げそうになったが、既のところで耐えた。  両手足の指先に力がこもる。  十夜の艶めいた舌が口腔を蹂躙し、自分の上顎や歯列をなぞった。  まるで飴玉を転がしているみたいだ。  きもち、い。十夜とのキス。  衣擦れの音が、狭くて静かな空間に響く。  後頭部に手を回されて顎を持ち上げられたせいで、2人の境界線がより曖昧になった。  さらに深いところまで十夜を感じたころには、体の中心に血が集まり始めていた。  これ以上すると、大変かも。  俺は舌を絡ませるのをやめ、はぁっと熱い息を吐いた。  火照った顔を自覚しながら、十夜の肩口を手で押した。 「十夜は、欲求不満なの?」  この間会ったばかりの、しかも男とこんなことして。  鼻先の当たる距離で問うと 「……かもね」    十夜はほんのり桃色に染めた顔をして、そう呟いたのだった。  そうか、欲求不満か。  さすがの十夜でも、数週間で新しい人を見つけるのは難しいのかもな。  そんなことを思っていると、はぁっと目の前で熱い吐息を吐かれたあとで 「なんであの時、あいつに尻触られて笑ったんだよ」  と訊かれて、俺は黙り込んでしまった。  なんのことか分からなかったからだ。  いつの時? と訊けば教えてくれた。  飛び蹴りをする前のことだと言われて、ようやく合点がいった。   「急に触られたから、ビックリして笑っちゃったんだ」 「……なんだ。俺はてっきり、触られて嬉しかったのかと」 「え、そんな訳ないじゃん」 「だよね。ていうか優太さん、見かけによらずキス上手いね。もう1回してもいい?」 「えー……まぁ、いっか。はい」  顎を持ち上げると、唇が降ってきたので受け止めた。  そうだよね、減るもんじゃないし。  十夜の欲求が少しでも解消されるなら、俺で良ければ。  でも、できれば早く彼女を作ってね。  俺、本当の気持ちをずっと隠しておけるほど、器用ではないから。  その後十夜はしばらく、俺とのキスを味わっていた。  満足したのか、何度目かの触れ合いの後で体を離され「ありがと」と礼を言われた。  ドキドキが抑えきれぬ俺は、どうにか寝床につき、昂っている足の間から意識を飛ばした。  目覚めた時、俺は反射的に体を跳ね起こしていた。  素早く横を見ると、こちらに背を向けて眠っている十夜の姿が確認できてホッとした。  今日はちゃんといてくれたことに、なぜか底抜けに嬉しかったのだ。  起きた十夜に、「はよ」と目を細めながら少しかすれた声を出されてまたドキッとする。  昨夜はその唇とたくさん、キスをしてしまった。 「早く彼女ができるといいね」  十夜が家を出る直前にそう声を掛けると、何か珍しいものでも見るような目で見つめ返された。 「……優太さんもね」  ニコリと微笑まれて胸がチクリと痛むが、変に清々しくもあった。  あぁやっぱり。  この人は俺に彼女が出来ることを願ってる。  付き合って、なんて言えるわけがない。    十夜が帰った後もずっと十夜のことを思っていた。  濡れた唇。程よい弾力。  顔にかかる熱い息。意外と長いまつ毛。  そしていつもの、熟れた桃みたいな甘い香り。 「……ぅ、う……」  ひくひくと、腹の奥が疼き始めた。  みだらな気持ちを押しとどめておくのは大変だったが、ひとりになった途端、もう我慢する必要はなくなったのだ。

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