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第36話 接客は顔と目を見て
「そういえば優太くんから聞きましたが、十夜くんは27歳らしいですね」
メニューを選び終えて早々、白々しく笑われた俺は尻込みして顔がカーッと熱くなる。
「あのー、もしかして前から知ってました? 本当は高校生だってこと」
「はい。君に3、4度ほど、お会計をしてもらったことがあります」
「えっ、マジですか?」
予想は当たってはいたが、あの店でそんなに対面していたなんて驚いた。
いかに自分が客の顔を見ずに適当に接客しているのかを思い知らされた。
「僕の数少ない趣味のひとつが古本屋巡りなんです」
「じゃあ、優太さんの元彼にクリームソーダをぶっ掛けた時から気付いてたってことですか」
「初めは気付きませんでしたよ。君が風呂から上がった後にレモネードを渡した瞬間、どこか見覚えのある顔だなぁと思いまして。片付けをしている最中に、あ、古本屋の子だなと」
「けどその後、何も言って来なかったじゃないですか」
「スーツを着ていたし、何か事情があるのかなぁと思って」
クスクスと笑われて、俺はますます恥ずかしい気持ちになる。
けれどあえて深く掘り下げずにそっとしてくれた野中さんには感謝だ。
あの日、スーツを着ていた理由を話せば納得したけれど「そういえばサイズが合っていなかった気がしたんです」とまた笑われた。
頼んだミートソーススパゲッティがやってきたので、腹が減っていた俺はズルズルとすする。野中さんは上品にオムライスを食べていた。
「あの、俺が本当は高校生だってこと、優太さんには……」
「言っていませんよ」
「あ、そうですか」
良かった。一息つくと、不思議そうに首を傾げられた。
「どうして嘘を吐いているんですか? 素直に高校生だって言えばいいのに」
「それが言えたら苦労しないっすよ」
今さら感が半端ない。
当初はここまで優太さんと関わるだなんて予想してなかった。
適当に嘘を重ねていくうちに2人の時間も密度も濃くなって、間違いを正せなくなってしまった。
真実を知った時、優太さんがどんな反応を示すか怖いので、このまま27歳を演じていくつもりだ。
「そうでしょうか? 心からきちんと謝れば、優太くんは受け入れてくれると思いますが」
「……野中さんって意外と、優太さんと仲良し?」
「まぁ、仲良しというか、仲間意識がありますので」
「仲間意識?」
「センシティブな問題で」
スパゲッティを咀嚼しながら、じいっと野中さんの顔を見つめる。
てことは、この人もノーマルでは無いってこと?
対象が男でもいける?
イコール、優太さんも恋愛対象になり得るってことか?
カッと目を見開いた俺は慌ててその場で立ち上がり、椅子をガターン!と後ろへひっくり返した。
「ま、まさか優太さんのこと?!」
「いえいえ。そんなことはありませんから、落ち着いて座ってください」
「…………」
俺は縮こまりながら椅子を立てて座り直した。
「僕は恋愛対象が男性なんですが、優太くんを恋人にしたいとは思いません」
「へぇ、そうなんすか」
あからさまにホッとした自分に気付いて「ん?」となる。
何ホッとしてんだ。
俺はブンブンと首を振って、仕切り直した。
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