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第41話 生姜湯飲ませてほんわりと
「ていうか白湯って、優太さんが飲みたいって言ったの?」
「いいえ、俺が勝手に。飲みやすいかなと」
「ちょっと待ってろ」
俺は勝手知ったるなんとやらで、すぐそこの冷蔵庫を開けて生の生姜を取り出し、おろし金を使ってゴリゴリとすりおろした。
「へぇー。もしかして生姜湯ですか?」
「うん。喉が炎症を起こしてると思うからな」
俺はすっかり27歳のフリがうまくなってしまった。
無垢な(?)17歳でいられる時は、ケンと新の前だけだ。
蜂蜜も入れた生姜湯を優太さんに渡すと、たいそう喜ばれた。
落とさぬように両手でカップを包み込み、フーフーと息を吹きかける優太さんはやはり国宝級に可愛い。
恐る恐る飲んだ一口が弱った体にやさしく染み渡ったようで、ホッと安堵の表情を浮かべている。
「わぁー美味しい……十夜は本当に気が利いて優しいねぇ」
ふふ、と微笑まれる。
いつもなら誇らしくなるその言葉も、今は素直に受け取れなかった。
それはきっと、匠志のせいだ。
優太さんは、こいつにも優しいねと言っていた。
もしかしてこの人、誰にでも言ってるんじゃないか?
少し親切にしてもらえたら、気が利くね。
手を差し伸べてもらえたら、優しいね。
──俺だから、って訳じゃない。
みぞおちの底からまた嫉妬心。
優太さんは生姜湯を飲み干してからまた礼を言い、今度は匠志の方を向いた。
「そういえば、アルバムってもう発売になったんだよね?」
「うん、一昨日ね。今までで1番いい出来だよ」
「そう言ってたね。この前の配信見たよ。みんなで海に行ったんでしょ?」
「あぁーそうそう、撮影でね。風が強くて大変だったんだよ。ヒロの上着が吹っ飛んで海に入ってさぁ」
「えーっ、大丈夫だったの?」
「絞ってそのまま着てたよ。そしたらカニが紛れ込んでたみたいで大騒ぎだった。みんなで爆笑しちゃって、そのシーンもプロモで流れる予定」
「あはは、楽しそうだね」
「すげー楽しかったよぉ」
あはは……とほんわかほのぼのムードで笑い合う2人と、置いてけぼりの俺。
あまりにも2人が馴染んでいて、2人だけで完結していて、俺が入れるスペースが全くない。
最近知り合ったばかりのくせに、と匠志のことをジト目で見つめるが、ふと思った。
俺だって最近知り合ったばかりで、優太さんのことをそこまで知らない。
例えば誕生日とか家族構成とか、育った町はどんなだったのかとか、これまで感動した映画とか好きな漫画とか。
ぜんぜん、知らないじゃないか……。
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