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第42話 自分の気持ちに気付いたよ
感傷に浸っている俺に、2人は全く気付いていなかった。
「そうだ優太くん、今日CD持ってるけど買う? 特典もあるよ」
「欲しいのはやまやまなんだけど、お金を下ろしに行けてないんだ。行けたら買いたいな」
「そっか、分かった。じゃあ優太くんの分、取り置きしておくね」
匠志はニコリとして、バッグに入っていたCDを取り出してそこに付箋を付けた。どうやら優太さんの名前を書いているらしい。
じっと凝視していると、横から優太さんの視線を感じた。
「あ、十夜も欲しい? 欲しかったら匠志くんに言えば……」
「いいや」
どうして俺が全く興味のないバンドのCDを買わなくちゃならないんだ。
優太さんは少しむくれて、匠志のバンドの曲はすごくオススメだということを言ってきたのでウンザリし、いつもみたいに右から左へ聞き流した。
優太さんは、泣き虫で人を見る目が無いくせして、短期間でここまで匠志と心を通わせることに成功していて。
高校の頃は人間関係に苦労したようだが、意外とコミュ力は長けている。そもそもバイト先がライブハウスな時点で陽キャの分類だ。
俺は、見くびっていたのかもしれない。
優太さんは俺が思っていた以上に、人付き合いがうまい。だから匠志との関係なんて氷山の一角で、こんな風に仲良くしている奴はたくさんいるのかもしれない。
大学では? バイト先では?
一体どれだけ、拠り所にしている奴がいるんだ?
俺は何も、知らない。
今現在、俺が1番優太さんと同じ時を共有していると根拠もなく絶対的自信を持っていたさっきまでの自分が恥ずかしくなる。
くそ、腹が立つ。
──俺は、優太さんが好きだ。
ずっと目を背けてきた自分の気持ちを、否定できなくなった。
俺は優太さんにどうしようもなく惹かれている。
優太さんにとって、俺が1番であって欲しい。
俺だけを見て欲しい。その笑顔を独り占めしたい。
その笑顔を他人に振りまかれると、そいつを排除したくなるくらいに醜い嫉妬心が湧いてくる。
俺は手のひらに爪を食い込ませて、ぎゅっと握りしめた。
こっちを向いてよ、優太さん。
俺、あなたのこと、これから誰よりも1番知っていきたいんだ。
心の波のうねりは最上級に高くなって、今にも崩してしまいそうだったが、ほんの少し残る理性で崩すことを回避した。
匠志をじっと見つめる。
負けない。俺は自分にも、こいつにも。
「匠志くん、荷物持ってちょっと来て」
俺は匠志に声を掛け、再びキッチンの方へ向かった。
匠志が大人しくついてきたのを確認し、リビングとキッチンの間にあるドアを閉めた。
「何でしょう?」
「そのCDっていくら?」
「2500円ですが」
俺は財布の中身と睨めっこする。
2500円なんて、高校生に取っては大金だぜ。
「ぐぅぅ」と踏み潰された蛙のようなうめき声をあげながら、札と500円玉を泣く泣く手渡した。
「えっ? まさか、買ってくれるんですか?」
「うん」
「ありがとうございます!」
匠志はリュックの中をゴソゴソと漁り、CDと一緒にブレスレットを渡してきた。
「何これ?」
「特典です! 俺がデザインして作ったんですよ~。特別に、1番気に入ってるピンク色をあげちゃいますね!」
薄いピンク色をしたシリコンのブレスレットには、白字でバンド名が入っている。よく見るヤツだ。6色展開らしいが、匠志は自分の推し色のピンクを有無を言わさず押し付けてきた。
「へぇー、すっげぇ嬉しいー。ありがと」
全然心の篭っていない礼を言ったあと。
「で、代わりと言っちゃあなんだが、1つ頼みがあるんだけど」
「はい、何でしょう! 俺で良ければ何なりと!」
「お前もう帰れ」
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