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第43話 至れり尽くせり、感謝です side優太
-side優太-
どうしたのだろう。
2人が部屋から出ていったっきり、帰ってこない。
不思議に思っていたらドアが開き、十夜だけが戻ってきた。
「あれ、匠志くんは?」
「んー、なんか帰った。急用を思い出したとか言って」
──いやいやいや。
そんな嘘、誰が信じるっていうんだ。
笑って突っ込みたかったのにそう出来なかったのは、十夜がなぜか、俺を真剣な眼差しで見つめていたからだった。
俺は言葉を失ったまま、近づいてくる十夜から目が離せない。
どうしたんだろう。
いつもの十夜じゃない気がする。
体調不良も手伝って、不安な気持ちになってくる。
ついにベッドの淵に腰掛けた十夜が、こっちに手を急に差し出したので驚いて、反射的に目をぎゅっと閉じた。
「これ、優太さんにあげる」
「え……?」
ふと目を開けると、十夜の手の上にシリコン製のブレスレットがあった。
それが何か聞かなくても分かる。匠志くんがデザインした、数量限定のブレスレットだ。
「えっ? もらったの?」
「CD買ったら渡された。俺は使わないから」
さっきはCDいらないって言ってたくせに、どういう心境の変化だ。
理由は分からないけど、とにかく匠志くんのバンドを気になってくれたのだ。嬉しくなった俺はふふっと笑みを零した。
「これ、十夜が持っててよ。俺も今度買ったら貰えるから、そうしたらお揃いになるよ」
俺はそのブレスレットを、十夜の手首に嵌めた。
十夜はただ静かにそれを見つめていた。
「俺と十夜の、『友情記念』ってことで」
「……ん。分かった」
どことなく気落ちしたような声に聞こえたが、その後、十夜は俺にいろんな質問をしてきた。
俺の誕生日とか、家族構成とか。
俺は聞かれたことに対して丁寧に答えていく。
どうして今そんなことを聞くのか不思議だったけど、身振り手振りも混じえながら答えていると、十夜がふと、俺の手首を掴んだ。
「優太さん、ちょっと痩せたんじゃない? ちゃんと食べれてんの?」
やっぱりいつもの十夜じゃないみたい。
どことなく穏やかで声も優しい気がした。
「風邪引いてからはあんまり」
「ゼリーくらいだったら食べれる?」
「あ、うん。ありがとう」
ベッドから降りようとした俺を十夜は「いいよ」と止めて、その場でゼリーの蓋を開け始めた。
袋に入ったスプーンも取り出し、ゼリーを1口分掬う。
「ほら、あーん」
「えっ」
ゼリーののったスプーンを、強引に口の中に入れられた。
ヒンヤリとして美味しいけれど。
まさかこんなことをされるとは予想外だったので、照れまくってしまう。
「美味しい?」
「う、うん」
その後もわんこそば状態で、どんどんと口に入れられてしまい、間に合わなくて口の端から透明のゼリーが少し漏れた。
十夜はすかさずそれを指先で摘んで口に入れてきたので、指の腹を意図せず舐めてしまう。
舌先でざらりと感じた十夜の指先。
俺の羞恥心はいよいよマックスになった。
「とっ、十夜は俺のこと、気持ち悪いとか思わないの?」
「は? 何いきなり」
「だって俺、男だし……この前は、何度もキスもしちゃったし。十夜は女の子とそういうことしたいんじゃないのかなぁって思って」
十夜は俺をじっと見つめたまま考え込んだ後で
「気持ち悪いだなんて、思わないよ」
「あ、そうなんだ?」
「優太さんはどうなの? 俺のこと」
「どう……って?!」
あわわ、と勝手に慌ててしまう。
そんな言い方されたらまた熱が上がっちゃう。
「だから、気持ち悪いって思うのかよって」
あ、そっか、その話ね。
焦った。好きか嫌いかで答えなくちゃいけないのかと思った。
「もちろん俺だってっ、十夜のこと気持ち悪いだなんて思うわけ……っ」
ゲホゲホッ! と激しく噎せてしまいまた焦る。
十夜はすかさず、俺の背中をさすってくれた。
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