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第45話 帰りましたと見せかけて

 俺は自然な動きを心がけながら、太もものあたりにかかっていたタオルケットを胸の方まで引き寄せた。  だが実際はぎこちない動きになっていたようで、十夜はタオルケットの端を掴んできた。 「そんなに掛けて大丈夫? コレ暑いんじゃないの?」 「あっ……」  捲り上げられかけたタオルケットを慌てて引き寄せると、首を傾げられた。  取り繕うので精一杯だ。  俺はニッコリしながら、タオルケットに隠れているそこに意識を集中する。見てはいないが、どうにも誤魔化しようのない膨らみがあるような気がした。  これはまずい。  なんてことないキスだけでこんな風になっただなんて、絶対に知られたくない。  俺はここをどうにか切り抜けようと必死になった。 「大丈夫! 暑くないから」 「だって汗かいてんじゃん」 「大丈夫だって! それより俺、なんだか眠くなってきちゃった。十夜ごめん、来てもらったのに悪いんだけど、そろそろ……」  目を擦りながら、察して、と言わんばかりに眉を八の字にして懇願すると、十夜は俺の顔をじっと見つめたあとで頷いた。 「分かった。じゃあ俺、帰るわ。あんまり長居しても悪いしね」 「あ、そう? ごめんね。ありがとうね、来てくれて」  あっさりと承諾してもらえてホッと一息吐いた。    良かった。『着替え手伝ってあげようか?』だなんて言われたらどうしようかと思ったけれど。  十夜はサッと立ち上がり、壁のスイッチに手を添えた。 「寝るなら電気消しとこうか?」 「あ、うんっ、ありがとう」  すぐにパチンと電気が消され、暗闇になった。だけど廊下の電気は付いているので十夜の表情はよく見える。  俺に優しい目を向けながら唇だけで笑い、「お大事に」とリビングとキッチンの間のドアを閉めた。  金属製のドアが閉じられた音が聞こえたので、十夜が帰ったことが分かった。  緊張が解けた俺は熱っぽい吐息を吐いて、ベッドヘッドに背中をズルズルと滑らせる。 「はぁ……っ、良かった……十夜にしては珍しく従順だったけど」  どうやらピンチは切り抜けられたようだ。  せっかく来てもらったのにすぐに帰ってもらっちゃって悪いけど、しょうがない。緊急事態だったのだ。  タオルケットをこっそり捲ってみると、そこはやっぱり兆していて、薄いパジャマの布が押しあがっていた。  十夜のせいだ。どうしてあそこでキスなんかするかな。  文句を言いながら俺は、それをゆっくりと撫で始めた。久しぶりの感覚なので、あっという間に熱が上がっていった。 「はぁ……」    十夜に出会ってから、ほんとの変態になっちゃった気がする。  体は本調子じゃないのに、ここはこんなに元気になってるってことは良くなってきてる証拠かな。  色々と頭の中で考えながらズボンの中に手を入れた時、開かないはずの部屋のドアが開いた。 「忘れ物したー」 「……!」    十夜は何食わぬ顔で部屋に入ってきて、部屋の隅に置いてあったビニール袋の中からペットボトルの水を取り出した。 「自分の分買ってたの忘れてた」  悪戯っぽく笑われて、フツフツと羞恥心が湧いてくる。  絶対わざとだ。  家から出ていったかのように見せかけて、きっと玄関のところでずっと佇んでいたのだ。  俺は鯉のように口をパクパクとさせたまま、何も言えなくなってしまった。

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