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第48話 閑話 野中の気付き1

 *十夜が東にクリームソーダをぶっかけた後の話* side野中 「シャワーを浴びたらこれに着替えて下さい。下着は新品です。服も差し上げますので、そのまま着て行ってください」 「え、いや、悪いですよ」 「自分が水を掛けたせいなので、気にしないで」  僕よりも幾分か背の高い、見た感じ同世代の彼に服を手渡す。  彼は申し訳なさそうにしながらもそれを受け取り、バスルームへ消えていった。  さて、今度はこっちの子だ。  近づいて、タオルで頭を拭いてあげると、その子は様子を伺うように僕を見上げてきた。  まるでチワワやリスのような小動物だ。  大きなその瞳の奥に透けて見えるのは、怯えと落胆。  こうなってしまったことに、罪悪感を感じているのだろう。  いかにも自分を責めそうなタイプだ。  僕は最初から、この子の彼氏に違和感を感じていた。  この子が入店してから随分と時間が経ったころ、あの暴力的な彼が入店してきたのだが。  ドアは勢いよく開けるし、壊れちゃうんじゃないかと思うほどに乱暴に椅子に座るし。  店内にいる客の訝しむ視線が突き刺さっているのに、それに全く気付きもしない鈍感さ。  タバコの箱を取り出した時はどうしようかと思った。  話し方も、どことなく高圧的な感じであった。  その彼に対してこの子の態度は、まるで腫れ物に触るようで。  ハワイと北極グマくらいに全くチグハグなのに、どうしてあんな人と付き合っていたのだろう。  気になっていたら「迷惑をかけてすみません」と謝られたので、互いに自己紹介をした。 「痴情のもつれ、というやつですか」 「野中さんにも聞こえてましたか? 男と付き合うだなんて、理解できないですよね」 「いいえ、理解できますよ。僕も君と同じだから」 「同じって?」 「男の人が好き」  優太くんの口がポカンとする。  あ、元気付けるつもりで安心させたかったのだけど、それはそうなるか。いきなりそんなこと言われても困るよな。  仕切り直して、あの人と付き合わなくちゃならない事情があったんだろうと問うと、優太くんの目はまた落胆の色を宿していた。  僕は優太くんにも服を渡したあとで階段を下り、水浸しの床やテーブルをモップで拭き上げた。木の床が水を吸って濃くなっているが、しっかり乾燥させれば問題無いだろう。大事な豆や食器は無事だったのは幸いだ。  それにしても僕、いきなりバケツの水をひっくり返してしまうような気丈さを未だに持ち合わせていただなんて。  昔はスポーツ魂というか、ラグビーをやっていたので精神的にも肉体的にも強かったけど、辞めてからはすっかり大人しくなっていたのに。  ふふ、と苦笑して、しているネックレスのトップを服越しに掴んだ。  Dさんが今日のことを聞いたら、大袈裟に目を丸くするだろうな。

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