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第51話 閑話 十夜の気付き②

 *あの時の彼* side十夜 「横領なんて、馬鹿なことをするもんだな」  朝ご飯時、食卓で新聞を広げる父親がふと発した言葉に俺は食いついた。 「誰が横領したの?」 「あぁ、この人」  新聞を見せられたが、そこには小さな文字がびっしり並んでいたので頭がクラクラとする。  そのページには、地元の事件や事故についての記事が載っていた。  そしてそこに、いかにも優しくて朗らかそうな四十代手前くらいの男の顔写真が載っていた。  写真の横にはでっかく『横領』『逮捕』の文字。  どうやら会社の金を使い込んでしまったみたいだ。 「こんなに善良そうな顔をしているのに。人は見かけで判断したらいけないんだなぁ」  父親はしみじみと言いながらブラックコーヒーを片手に立ち上がり、向こうへ行ってしまった。  俺はなんとなしに、新聞の顔写真を眺める。  確かに、虫も殺せなさそうな人が、裏ではしれっと犯罪していたのだと思うと怖いよなぁと思っていたら。 「……んん⁇」  新聞に顔を近づけて、その人物を食い入るように見つめた。  この目、鼻、輪郭、髪。  見覚えがありまくりで、あぁーっと叫んだ。  紛れもなくこいつは、俺が飛び蹴りをした相手だ。あの日、優太さんの財布をスろうとした!  俺はその記事を写真に撮り、すぐに画像を優太さんに送りつけた。 【こいつ見て】  すぐに既読が付いて返信が来た。 【うん。見たけど、どうしたの?】  俺はズッコケそうになる。  どうやら顔を覚えていないらしい。  電話をかけて事情を説明した。 「あの時のサラリーマンだよ、俺が飛び蹴りした」 『飛び蹴りって……えーっ!!』  電話の向こうで後ろにひっくり返ってるんじゃないかってくらい、驚愕の声を出された。 『嘘嘘! 逮捕されちゃったのー?!』 「そうだってよ。ほら、やっぱり。俺は初めっからあいつは怪しいと思ってたんだよ。なのに優太さんは『いい人だ』っって言うからさぁ」  ここぞとばかりに優太さんを追い詰める。  ふぅ、安心したぜ。  やはりあの時、優太さんの財布をスろうとしていたんだ。飛び蹴りをした俺は間違っていなかった。  電話の向こうからは『うぅ……』という呻き声が聞こえてくる。 『ごめんね……本当に、ありがとう。十夜がいてくれたお陰で、助かったよ』  ど直球に感謝をされて、俺の体温がほかほかと上がっていった。  ま、まぁそんな風に言ってくれるんだったら、あの日にこの男の肩を持った優太さんを、許してやってもいいけど? 『俺、やっぱり人を見る目が無いみたい。これからは気を付ける。だからもし、俺がまた変なことしてるなって思ったら十夜、注意してくれる?』 「うん、分かった。……俺が、優太さんの……」  ──そばにいて、ずっと見守るから。  この身を呈して、守り続けるから。  なーんて甘いセリフは、絶対に言えるはずもなく。 『俺の、何?』 「……何でもない。ところで、カラーシャンプー買った?」 『ううん、買ってない。この前見に行ったけど、高いんだもん……十夜、社会人なんだから奢ってよ』  俺は高校生だ、甘えるんじゃねぇ。  それも言えぬまま、「気が向いたらね」と適当に返事をして笑っておいた。  *END

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