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第54話 嫌われゾンビは血を流す

「いえーい! 突破したぁ」  ケンは画面を見ながらぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでいる。  どうやら無事ゾンビを倒し終えて、次のステージへ進めるらしい。  ケンはくそ下手だが、その分となりにいる新がカバーしてくれているお陰だ。  俺は近くのベンチに座って文字を打っていく。 【体調はどんな感じ?  今度、海とか行か】  ……そこまで打って、やっぱり消した。  海のことで匠志と盛り上がっていたことを思い出したからだ。  匠志のバンドが海でプロモ撮影をし、その動画配信を見たよーと、嬉しそうに話していた優太さん。海なんかに行ったら、そのことをまた話題に出すに決まってる。  ナシナシ。  海はやめとこう。  じゃあどこへ行く?  歴代の元カノと訪れたデートスポットへは、なんとなく行きたくなくて悩む。  優太さんのLINEのページを開いた状態でうんうんと唸っていたら、ケンが俺のところにやってきた。 「ラスボスまじ強くてムリ。新はもう1回やるってー」  1000円札を両替機に突っ込んでいる新が見えた。  さすが、もと剣道部の負けず嫌い。  ケンは俺のとなりに腰を下ろし、スマホを楽しそうに覗き込んできた。 「んー? 十夜、優太クンとLINEしてんの?」 「ん、一緒に出かけたいんだけど、どこに誘おうかと思ってよ」 「海でいいじゃん? なんなら俺らとダブルデートする?」 「どっちも嫌だわ」 「えー、じゃあ水族館とかは? 電車ですぐだし」  それはそうなんだが、元カノどもと何度か行ったことがあるんだって。  うーん、と歯切れ悪く返事していると、むむっとむくれたケンが俺のスマホを素早く取り上げてしまった。 「十夜って見かけによらず優柔不断だよねー。とりあえず送っちゃえばいいのにさ!」 「あっ」  俺が止めるよりも早く、ケンは素早く文字を打って送信してしまった。 【優太さーん☆  今度、俺と一緒に水族館に行きましょうよー𓆡*!!】  いつも通り、ケンの陽気な文章だ。  くそっ、こいつの早打ちはどうにかならないものか。  俺の代わりに打ってもらうのはもう辞めにしたかったのに。  俺はスマホの画面が割れそうなくらいにブルブルと握って、ケンを睨みつけた。 「てめぇ……」  ポン、と優太さんからの返信がくる。  こっちもこっちで、返信するのが早いんだって。授業はどうした。 【いいよ!楽しみ!】  続いてポンッと優太さんの髪を彷彿させるピンク色のうさぎのスタンプが押されて、ムカついていた気持ちは多少はおさまった。  あ、けどそういえば、優太さんの髪はピンク色が抜け落ちてしまったんだった。  俺が染めてやるって言ったのに、まだやってない。  含み笑いしながらガン見してくるケンを無視して、俺は文字を打った。 【そういや、髪染めてやろうか?  ピンクに】 「髪染めてやろうかって、えー? この前染めてあげたばっかじゃん?」 「もうピンクが抜け落ちてんだよ。俺が染め直してやんないと」 「ふはは、何それ、カレシ気取り?」 「うるせ」  そんなやり取りをしてる間に返信が来た。   【あ、それだけど、大丈夫だよ~!  匠志くんがやってくれるって言うから、染めてもらったんだ!】  ポンッ、と写真が送られてきた。  満面の笑みをたたえている優太さんの姿。  髪の毛、すげーピンク色。 「なんだと!!」  てことは、昨日か今日に染めてもらったってことかよ。  あの丸メガネ野郎、今度会ったらマジでぶっ潰す。  ていうか優太さんも勝手なことしてるんじゃねぇ。  てめぇの髪を撫でて梳いて触って染めてやるのは俺の仕事なんだよ! 【あ、そ。じゃあまた連絡するわ】  俺はそのままアプリを終了した。  このモヤモヤ、一体どう消化させようか……  そんな時、身も心もボロボロだというような虚ろな表情をした新がフラフラとやってきた。 「お前の力が必要なんだ、十夜」 「わーった。任せろや」  ありったけの憎しみを込めて、バキュンバキュンとゾンビの頭を打ちまくる。  ドババーッと鮮血が出て、ぎゃあああぁぁと不気味な断末魔が上がった。

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