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第57話 高速スピン&縦回転ジャンプ
「優太さんがすぐに返信したいんだったらすればいいけど、そうじゃないなら無理に相手に合わせてないで、優太さんらしくしてなよ」
「俺らしく……」
「俺なんて、自慢じゃないけど友達からのLINEは平気でスルーするぜ」
「それは返してあげてよ」
「いいんだよ親友だから。それに、俺は気にしないぜ、優太さんからすぐに返信がなくたって……本当に重要な用事なら、いつでも電話するし」
イルカショーが始まったらしく、トレーナーが笑顔で入場してきた。
近くに座っているちびっ子が笑顔で手を振り返している。
「優太さんが何しても、悪いヤツだなんて絶対に思わない。だから、優太さんは優太さんらしくしてりゃあいいんだよ」
優太さんはハッとした表情になって、俺から目を逸らした。
えへへ、と鼻をかいて照れたように笑うけど、目尻に涙が滲んできたのを俺は見逃さなかった。
案の定、優太さんはあくびのフリをして口をあけて誤魔化していた。
それがまた、可愛かった。
「ん、ありがとう十夜。じゃあ白状するね。さっき来たの、ほんとはメルマガじゃなかったよ」
「んだよ、わざわざそんな嘘」
「東さんからだった」
ひく、と口の端を歪めた俺に、優太さんはスマホの画面を見せてきた。
さっき2度、優太さんが反応していた通り、2つメッセージが来ていた。
【よぉ、久しぶり】
【優太の忘れもんがあるから渡したいんだけど、今日は何時頃空いてんの?】
「空いてんの? じゃねぇよ! 勝手に空いてる前提で話してんじゃねぇぞ」
俺は画面に向かってガルルと唸って威嚇する。
やっぱこいつ嫌いだ。
なんか言い方が自分中心で腹立つ。
優太さんはうーんと首を傾げた。
「忘れもんって何だろう。俺、歯ブラシくらいしか東さんちに置いてなかったと思うんだけど……まさかそんなのを返したいだなんて言わないよね」
歯ブラシ。
なんだか生々しい発言に内心ジェラシー。
あんなクソ野郎でも、かつては付き合ってたんだもんな。
そりゃあ家に行ったり泊まったり、あんなことやこんなことをしたんだろう。
過去はどうやっても変えられないけど、できたら記憶喪失になってもらって、まっさらな状態で俺と付き合って欲しくなる。
「わざわざ連絡するくらいだから、優太さんの大事なもんなんじゃねぇ? よく思い出してみなよ」
トレーナーの合図に合わせて、イルカたちが上から吊り下げられているボールをジャンプしてタッチしている。
イルカがジャンプするたびに、水しぶきと人々の歓声が上がる。
高速スピンや縦回転ジャンプなどを華麗に決めているなか、優太さんはそれに目もくれずにウンウン唸っている。
イルカが高いジャンプをするために水中を高速で移動している最中、優太さんは「あっ」と顔を上げた。
次の瞬間、俺たちはイルカがジャンプして着地した拍子にあがった大量の水を頭から被っていた。
まさにずぶ濡れという表現がぴったりな俺たちは、顔を見合わせた。
予想していたのより4倍は濡れたな。
目を丸くした優太さんは吹き出した。
「……やっぱ、わかんないや」
「じゃ、とりあえず返信すれば? 俺も一緒に会ってやるから」
「いいの?」
「おう。そいつがまた馬鹿なこと言ってきたら、クリームソーダぶっ掛けてやるよ」
「ふふ、ありがと」
とりあえず、東に会うまでには全身が乾きますように。
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