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第64話 心の風邪でおやすみします side十夜

 ーside十夜ー  週明けの月曜日。  俺は起き上がれずに部屋にいた。  朝、起こしにきた父親に「心の風邪をひいたみたいなんで学校休みます」と正直に伝えたところ、本気で心配され、「今日の夕飯は特上の寿司を出前しような」と肩をポンとたたかれた。  特上寿司程度でこの心の痛みが取れるなら安いもんだぜ。  だが優太さんに涙を流しながら拒絶をされた瞬間から、何をしても胸の重りは取れない。きっと寿司を食っても同じだろう。  あの時の俺は、どうしてあんなことを……。  悩んでいても仕方がないのに悶々とする。  こんなの知らなかったけど、大好きな人に嫌われるのって相当辛いんだな。  それほど、あの人をもう好きになってるってことだ。  布団を被って丸まっていたら、客人を知らせるチャイムが鳴った。  当たり前にスルーをするが、すぐにもう1度鳴らされた。  この家には今、俺しかいない。  宅配だろうか。  しつこくも3度目のチャイムを鳴らされた。  はぁぁー、と深いため息を吐き、布団を蹴りあげてベッドから下りる。  上下スウェットでボサボサの髪のまま玄関に向かっている最中にもまたチャイムを鳴らされたので、俺はイラつきながらドアを開けた。 「はいすいませんね! お待たせしました!」 「あ、なんだー、元気そうじゃん」  立っていたのはケンで、その後ろに新もいた。  俺はうんざりして、もう1度ため息を吐く。 「なんだお前らかよ」 「あっ、なんだとはなんだよ! LINE送っても既読付かないから心配して来てあげたのに!」 「今はそんな余裕ねぇんだ。明日はたぶん登校するから心配いらねぇ。帰っていいぞ」 「分かった。お邪魔します」  俺の横を、新がスッと通り過ぎて靴を脱ぎ、上がっていった。それに倣ってケンも当たり前に玄関に入ってくる。  ここには何度か来ている2人だから、勝手知ったるといった感じでリビングに直行し、ダイニングに並んで着席した。  2人の前に座るよう、視線で促された俺はまたため息を吐き、冷蔵庫の烏龍茶をガラスコップについで2人の前に置いた。 「何があったの? 土曜日に優太クンとデートしてきたんでしょ? 俺たち、十夜のノロケ話が聞けるのを楽しみに学校行ったのに欠席なんだもん。ビックリしたよー、何があったの?」 「ケンちゃん……」  心配してくれるケンの気遣いが今は逆につらい。  お願いだから優しくしないでくれます?  泣きそうになるから。 「お前、身体だけは丈夫だからな。体調不良って訳じゃないんだろ。あの人となんかあったのか?」  新も当たり前に心配してくるが、新に対してはケンのそれとは気持ちが違った。  問われた俺はキッと睨みつけて反論する。 「新が変なこと言うから悪ぃんだろうがぁぁ!」  獰猛な肉食獣のように威嚇するが、新はピンときていないようで首を傾げているので、ケンが助け舟をだした。 「新、十夜になんか変なこと言っちゃったの?」 「いいや別に」 「しらばっくれてんなよ! 言っただろうが! セックスしてからの告白からの謝罪じゃんって!」  優太さんがセーラー服姿で赤い顔をしていたのを見て、俺の理性は抑えきれずに暴走してしまった。その場で優太さんを手に入れたいと思ってしまったのだ。  その瞬間、頭の隅で新の声が聞こえた。  馬鹿なアドバイスだと思ったが、優太さんも興奮しているっぽかったし、雰囲気に流されていけるんじゃないかと感じたのだ。  結果、本気で嫌がる素振りを見せられ、挙句には『キツい』んだと。  もう今さら告白どころじゃない。  完璧に嫌われた。  謝罪しようにも何から謝ればいいのか分からないし、頭がグルグルする。

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